どのように格差問題は是正されるべきか、あるいはされるべきではないのか?
黒田:SDGsの目標がどこまで達成できるかはさておき、方向性としてはお二人とも前向きなご意見であった。自分自身もそうあってほしいと思うが、日本では東日本大震災のときに原発の事故で、火力発電に回帰することとなった。それから10年近くたった今も基本的にそのままの状態が続いている。あれだけ痛い目に合いながら、原発も続けている。むしろ、福島から遠く離れたヨーロッパのほうが、脱原発や脱化石燃料が進んでいる。なので、今回もコロナによって日本社会は本当に変わるのか心配ではある。
次に格差問題を伺いたい。コロナも自然災害も等しくすべての人に降りかかるのだが、被害が深刻化するのは脆弱な立場の人たちである。アジアではなぜか死者が少ないが、少なくとも欧米ではコロナの死者は圧倒的に低所得層が多く、コロナで格差問題がより一層浮き彫りになったのではないか。
一方で、格差問題を解消させるのは大事でありながらも、資本主義では競争して勝ち負けがあるから活力が保たれているということも言える。所得格差は是正させるべきか否か、是正させるとしたらどのようにすればよいだろうか。
渋澤:所得格差は縮めなくてはいけないが、格差が悪とは思わない。イノベーションはある意味で格差を作るものである。広がりすぎたところで、縮めるための新たなイノベーションが起きる。格差が広まり縮まり、また広がり縮まり、というのが正常な経済社会だと考えている。問題なのは、格差が広まったままで固定されている状態である。また、格差が全くない社会というのも、それは気持ち悪い。
コロナ禍における最大の危機は、世の中が安心安全安定を求めるあまり、何でも政府に「決めてください」という意識になってしまっていることだ。監視社会、全体主義に流れる恐れがある。強烈な独裁者がいなくとも、今のIT技術で国民の監視はできてしまう。日本人が困るのは自由にどうぞと言われること。「席はご自由に」と言われて、皆、どこに座ったらよいかわからなくて困ってしまう。
ベーシックインカムのようなものが理想かというと、自分はそうは思わない。魚を与えるのではなく、魚を捕るスキルを教えるほうが大事と言われる。もちろん、緊急事態では援助は必要だが、緊急でないときも、何でも政府に決めてもらい、政府に面倒を見てもらうことが普通になってしまう社会になってはまずい。
銭谷:今回、政府が10万円を配ることになったが、これに一番反応したのは中国。共産圏である中国は10万円配るということはしていないのに、日本は社会主義になったのか?と。日本は昔から島国であり、村社会、横並びを重んじるといった側面も否定できず、それが、渋澤さんが懸念として挙げられたことの要因であると考える。第二次世界大戦のときに、日本国民が大本営発表ニュースに倣ったように、政府から自粛だと言われ、”自粛警察“も生まれ、皆が自主的に従っているような状況だと受け止めている。
格差は日本では海外ほど大きくないが、グローバルではリーマンショック以降、格差が広がっている。アメリカでは、もはや昔のようなアメリカンドリームは難しい状況だ。アメリカの大統領はお金持ちのファミリーから出ているし、格差は何とかすべき大問題である。
その策として何かアイデアがあるわけではないが、今回の10万円の給付金で、ベーシックインカムの議論の素地はできたように思う。
渋澤:リーマンショックの後、金融緩和というレバーが入った。金融緩和というのは格差を生むのではないか。今、大規模な金融緩和がなされて、株価が戻ってきている。自分は経済の専門家ではないが、所得格差の是正と金融緩和は矛盾しているのではないかと問いたい。
黒田:今の意見に関連して、参加者からチャットボックスにご意見が寄せられているので、代読する。「格差是正や所得再分配は企業の機能ではなく国や行政が担うことではないか。そして、国や行政は企業や国民から税金を得ているが、個人的には資産税が有効ではないかと考える。税金というとフローの部分の課税という議論にすぐなるが、資産(流動資産+固定資産)に課税してはどうか。」格差是正の対策として資産税というアイデアについてどう考えるか?
渋澤:資産への課税について考えることはある。日本の場合、課税すべきは現金だと思う。生活のために何千万円以上の現金を持つ必要があるかといえば、ないはずである。異次元の話のようだが、異次元の金融緩和をしている今だから、考えてもよいのでは。使っていないお金をいかに回していくかということだ。
黒田:企業の内部留保への課税という話は今までもあった。コロナになって、やっぱり手元に資金を持っておかねばというメンタリティになり、企業が一斉に資金を抱え込んでいる。日本企業はただでさえ資金を抱え込みすぎと言われていた。現金を動かすことを税金で促すというのは1つの手段になりうるのかもしれない。
銭谷:どこに課税にするかは難しい問題だが、最近流行っている「ふるさと納税」のような仕組みをもっと活用できないか考えている。政府が財源を正しく分配できているかというと、そうではないと思っている人が多いはず。特に若い世代への分配はできておらず、だから日本は少子化が進んでいるとも考えている。教育投資も海外に比して少なく、土木関係ばかりに税金が使われている。将来世代への分配を政府がやらないのであれば、企業や個人がそれをすることにインセンティブが付く仕組みがあるとよい。
渋澤:個人の金融資産が総額で1000兆円もある国で、iPadやwifiを持っていない子供がたくさんいるというのは不思議な話だ。