【講演録】「コロナによってステークホルダー主義はどこに向かうのか:2/4」渋澤健氏、銭谷美幸氏他(第15回GEI有志会)

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コロナ危機に対応しつつ、2030年までにSDGsを達成できるのだろうか?

黒田:コロナによってステークホルダー資本主義を本気で追求するかが正に問われているというのがお二人の共通のポイントだったと理解した。では一体、日本の上場企業数千社のうち何割がステークホルダー資本主義に本気なのだろうかが気になるところではある。

さて、コロナ禍は長期化しそうで、経済が戻るには2年か3年はかかるのではないかと言われている。そうこうしているうちに2030年がやってくる。2030年といえばSDGsの最終年度である。コロナが起きる前から、SDGsを2030年に達成するのは難しいと言われていたが、コロナによって、益々ゴール達成は遠のいたのではないかと思われる。もちろん、SDGsの目標3には、感染症のワクチンを世界に届けるというのが含まれているが、一方では、目標3の一つをとっても、マラリアや顧みられない熱帯病や乳幼児の高い死亡率といった、コロナに匹敵するくらい深刻な問題が途上国にはある。また、アフリカで飢餓問題も起きている。今、世界中の資金がコロナ対策に振り向けられていて、こうした途上国の問題はどうなるのだと不安に思うのだが、コロナ危機によって、SDGsはどうなるのだろうか?

銭谷:SDGsで大事なことは、17項目は互いに関連しているということと、「誰一人取り残さない」とされているところである。コロナでも、特に被害を受けているのは低所得層であったり、ジェンダーの問題がからんでいたりということがある。コロナによって、SDGsで挙げられている問題について改めて考えさせられた。

また、コロナによって事業活動を止め、人々が外出しなくなったことで、どういう影響を空気や水に与えたかがESG業界で話題になっている。1つの例として、こちらの写真が示すのは、数十年ぶりにインド北部から見えたヒマラヤ山脈の姿。インドはPM2.5汚染がひどく様々な問題が起きていたが、ロックダウンで空気がきれいになった。また、今まで見たことのないような透明なガンジス川が現れたことも話題になっている。インドほか途上国では、事業活動をしないことが健康にはプラスになるということを人々が実感していると思われる。環境問題を数値上のことではなく、実際の問題として一般の人々がリアルに実感できるようになった。ゼロサムで選ぶような問題ではないので、ロックダウンを続けるわけにはいかないが、かといって元のように戻りたいか?ということを人々が実際に考えるようになるという意味で、今回のコロナのインパクトは大きいと思う。

また、ESG投資の業界において、昨年前半までは、ESG投資のパフォーマンスに関して疑問の声が多く聞かれた。しかし、今回コロナの発生後、ESG関連指数が、他の市場の指数と比較して、下落度合いが少なく、良好なパフォーマンスを示している事が証明された。ESG投資への関心が高まっていて、今後、より多くのお金がESG投資に流れていく可能性が高い。

したがって、これまで2030年までのSDGsの目標達成は難しいと思っていたが、環境問題に関しては、コロナによって達成への機運は高まったとみている。

渋澤:これも、SDGsが達成できるか否かではなく、SDGsを達成したいのか否か、ヒマラヤ山脈を見たいのかどうかという問いが大事だと思う。また、SDGsの前身にはMDGsという8つの目標があり、感染症に関していえばエイズ、マラリア、結核を制圧するという目標が掲げられていた。MDGsからSDGsに代わるときに、MDGsの関係者は「8つの目標すらまだ達成できていないのに、なぜいきなり17の目標か」とざわついた。しかし、自分は2015年にSDGsを見たときに、直感的にこれは良い流れだと感じた。MDGsは、日本の一般市民にとっては馴染みがないものだった。なぜなら、MDGsは、先進国から途上国へ、政府間、そして専門家によるものという世界だった。しかしSDGsのSのサステナビリティは途上国だけでなく、先進国でも考えなければならない問題である。また17もの目標、そして169のターゲットがあり、いわばグランドメニューなので、政府やNPOだけでなく、企業も個人も参加できるものとなっている。

実際、今、SDGsバッジを付ける人が増え、企業も統合報告書でSDGsを語り、認知度は高まった。ただ、それはかっこつけているだけなのかは問われる。2030年に向けて 今、SDGsの本番が始まったと考えている。

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