【NPOインタビュー】特定非営利活動法人 国境なき医師団日本

研究開発部門 Medical担当:京寛 美智子
研究開発部門
Medical担当:
京寛 美智子

研究開発部門でMedicalを担当する京寛 美智子さんとEngineeringを担当するOriol Lopez(オリオル・ロペス)さんにお話しを伺いました。(2016年9月7日)

■国境なき医師団の設立の経緯について教えてください。
国境なき医師団は、1971年にフランスで設立された、中立・独立・公平な立場で医療・人道援助活動を行う民間・非営利の国際団体です。紛争や自然災害の被害者、貧困などさまざまな理由で保健医療サービスを受けられない人々等を対象とした、緊急性の高い医療ニーズに応えることを目的としています。

Oriol Lopez
Engineering担当:
Oriol Lopez

■現在はどのようなところで、どのような支援活動をしていますか
主な活動地はアフリカ・アジア・中東などにおける途上国です。2015年は3万8000人以上の海外派遣スタッフ・現地スタッフが、約70の国と地域で活動を行いました。日本事務局は1992年に設立され、緊急医療援助活動とともに、海外派遣スタッフの募集・派遣、証言・広報、資金調達の主に3つの活動を行っています。最近では、日本に研究開発部門を設置し、活動の現場で質の高い医療を提供するためのパートナー探しも開始しました。
たとえば、現地では医療用物資の確保や輸送が課題になります。そこでパートナーの技術を活用し、ドローンによる輸送や、3Dプリンターによる物品の製造、ワクチンを冷蔵するための太陽光発電の利用等を行うことを検討しています。

■現地の支援事業で企業と協業した例について教えてください。
日本で私たちが企業との協業を模索し始めたのは最近のことですので、まだ事例は多くありません。私たちは現地の医療チームが抱える課題を解決するために、非常に具体的な要望を持っています。現在、それに応えてパートナーシップを組めるような企業を世界中、特に日本をはじめとするアジア、ヨーロッパ、アメリカで探しています。
実績として、緊急輸送が必要とされるような地域でのドローンの活用について、アメリカの企業との協業を実現することができました。また、大型貨物輸送用コンテナを扱う香港の企業と協業で、船舶輸送可能で、使用地で簡単に拡張でき、医療施設として使用できるコンテナの開発に取り組んでいます。

■企業との協業案件の良いところや難しいことは何ですか?
正直なところ、日本でのパートナー企業探しには苦労しています。
ある日本の企業のドローンは、非常に高度な技術によって、より重いものをより遠くに輸送できるスペックを有していました。しかし、コストが高くライセンス供与の点で問題があり、協業の実現に至りませんでした。また、前述のアメリカ企業との協業が実現したのは、彼らのドローンが人道支援の領域で使われることに特化していたためでした。
企業が私たちとの協業を望む理由は様々です。多くは、ソーシャルな領域で世界に貢献したいというビジョンを掲げていて、私たちのニーズにこたえるサービスやプロダクトを有しています。そして、寄付というよりも、より持続可能なビジネスパートナーとしての関係性を重視しています。
しかし、実際には、特に日本企業では、CSR活動イコール寄付という場合が多いように思います。また、たとえBOPビジネスを志向していても、公的なスキームに沿った事業に限定されるなど、社会貢献の確かなビジョンを有しているかわからないことがあります。日本でパートナー企業を見つけにくい理由はそこにあります。
例えば、麻酔のための機器を製造する会社にアプローチしたときのことです。その日本企業は、優れた技術を有していて、「子どもから大人まで簡単に使用できる機器」という私たちの要求を満たす製品をすでに持っていました。しかし、それは動物を対象に用いることで認可が下りていた製品でした。人間に対して用いる場合は特別な許可が必要で、認可までには長い時間がかかることが分かり、協業を断念しました。かわりに私たちが協業したのは、欧米の企業でした。彼らは同じような製品を、人道支援の目的で使用することを想定して開発していたので、認可も簡単に得られることがわかったからです。

■今後はどのような形で企業と組みたいですか?
グローバルに社会貢献しようとするビジョンを持つ企業と積極的に協業していきたいと考えています。日本には、世界の人道支援の領域で製品やサービスを提供する経験や能力のある企業はまだ多くありません。せっかく基礎研究に裏打ちされた高度な技術を有する企業が多いのですから、国内のマーケットのみならず、広く大きなビジョンを掲げて、BOP市場で私たちと協業してほしいと考えています。

特定非営利活動法人国境なき医師団日本HP:http://www.msf.or.jp/

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