第13回グローバル・エンゲージメント・イニシアチブ有志会「ESG投資の最前線」(レポート)

多摩大学社会的投資研究所との共催で行われた第13回グローバル・エンゲージメント・イニシアチブ有志会では、「ESG投資最前線」をテーマに、ニッセイアセットマネジメント株式会社チーフ・コーポレート・ガバナンス・オフィサー 上席運用部長の井口譲二氏と、コモンズ投信株式会社会長の渋澤健氏によるパネルディスカッションが、株式会社ピープルフォーカス・コンサルティング取締役・ファウンダーの黒田由貴子のモデレーションの下で行われました。

以下に、パネルディスカッションの概要をご紹介いたします。
なお、この会合で述べられたことは、それぞれの個人的な意見・見解であり、所属組織や団体を代表する意見ではありません。

メインストリームとなったESG投資

黒田:今日はゲストスピーカーとして、ニッセイアセットマネジメントのチーフ・コーポレート・ガバナンス・オフィサーであり上席運用部長の井口さんにお越しいただいた。まず、自己紹介もかねてESGについて少しお話しいただきたい。

井口:企業の分析をする17-18名のアナリストの統括をしている。議決権行使の責任者もしている。お手元の資料にある自分の経歴を見ていただければ、ESGに特化しているわけではなく、普通のアナリストであることがわかると思う。このことが象徴しているように、以前にはESGは局所的な投資であったが、今はメインストリームとなり、機関投資家にとってESGは加味して当たり前のことになった。

日本でESGが活発になったきっかけは、2014年のスチュワードシップ・コードの導入が大きい。このコードに署名すると、中長期の視点に立って企業を分析し、長期のリターンを求める責任が生じる。そして、前回のコードの改定にはESGという言葉も入ってきた。

短期の投資といえば、四半期決算を見て、次の決算で業績が上がるか下がるかを予測して、ベットしていくが、長期の投資であれば、経営者が何を考えているか、どういう経営戦略か、たとえば環境問題にどう対応しているか、従業員をどうモチベートしているかなど、いろいろな要素を見ざるを得なくなる。

よく、企業から投資家はどんなデータがほしいのかと聞かれるが、それは投資家がパッシブかアクティブかによって違う。弊社の場合、アナリストらは一人あたり20数銘柄を担当し。経営者と話したり、ESGの要素を評価したりしながら、中長期の業績予測を立てていく。このため、ストーリーが重要となる。一方、パッシブ投資家の場合、低いコストで運用する必要があり、運用者一人が見るのは200-300銘柄以上となろう。であるので、定型的なデータが重要となる。パッシブ系もご存知のように、大きな影響力をもっており、これに対応することも重要であり、企業さんにはデータをアペンディクスとして付けて置くことも重要と答えている。ここから私は、アクティブ運用者の視点で話す。

アクティブ運用者にとって一番大切なことは、長期業績予想であり、企業の将来の姿を捉えることである。それをマーケット以上に上手くやることで運用成績を上げられる。そのために色々な非財務情報の中から重要な要素を抽出しながら評価する。2008年来、こうしたことをやっているが、我々独自のESG評価が高い企業は株価パフォーマンスが良いことがわかった。中でも、ESGのうちS(社会)の要素が一番効いていた。

黒田:次に、コモンズ投信会長の渋澤さんに自己紹介をお願いしたい。

渋澤:コモンズ投信は2008年に立ち上げた長期的株式ファンドである。その立ち上げの背景を紹介する。自分がシブサワ・アンド・カンパニーを立ち上げた2001年ころ、子供ができた。その子供の将来のために、毎月定額を積み立てる投資を始めた。2002年に経済同友会の会員になった。それまでは、資本市場から経営者を見ていたのが、経営者と共に資本市場を見る機会が得られた。すると、市場のショートターミズムが気になった。そのころ、村上ファンドに代表されるモノ申す投資家が生まれ、そうした人たちと一緒に企業を訪問したことがあった。そのとき、投資家たちが言っていることは合理的であるが、正論を言っても、企業側はシャッターを閉じてしまい、聞く耳をもたなくなる。「対話感」が必要なのだと気が付いた。また、一般個人は通常、少数の株しか持てず、企業と接点が持てない。そこで、ファンドを作れば、共感する小さいお金が寄り集まって大きいお金になり、企業と同じ時間軸で企業との対話ができると考えた。そういう発想からコモンズ投信は生まれた。企業はゴーイング・コンサーンであり、今年だけで終わりということにはならない。つまり持続性ということが大事であり、企業と投資側が同じ時間軸で対話することによって新しい創造が可能なはずと思って立ち上げた会社なのである。

我々はアクティブ投資家だが、銘柄をアクティブに売買することはない。約3千社ある上場企業の中から30社を厳選し長期投資をする。何をアクティブにしているかというと、対話である。5年前ごろから、投資先の企業同士から学び合うための企業価値研究会を定期的に実施しており非財務価値について意見交換をする。テーマにはSDGsや人事などがあがることが多い。

黒田:では、まずマクロトレンドを見てみたい。最近、2018年のESG投資のデータが発表された。世界全体で伸びているが、日本の伸び率がすごい。2014年には70億ドルしかなかったのが、急激に伸びてきて、2018年は230兆円にまでなった。世界の中では、欧州、米国に次いで3番目の規模になっている。そして、投資全体に占めるESGの割合を見ると18%と、欧州や米国より低く、伸びしろがまだまだあることがわかる。ESG投資には様々なタイプがあるが、井口さんに簡単に解説願いたい。

井口:①「 ESG インテグレーション」は、通常の運用プロセスに ESG要因を体系的に組み込んだ投資であり、先ほど説明した弊社の投資スタイルもこれに当てはまる。 ②「ポジティブ・スクリーニング」は、 財務とESG の2つのスクリーニングを使用して選別されたセクターや企業、つまり「良い会社」に限って投資する手法である。 ③「サステナビリティ・テーマ型投資」は、 再生エネルギー、環境技術、農業等のサステナビリティのテーマに着目した投資。④「インパクト・コミュニティ投資」は、 社会、環境、コミュニティに与えるインパクトを重視する投資。 ⑤「エンゲージメント・議決権行使」は、ESGのエンゲージメント方針に基づき、企業に働きかけ(議決権行使を含む)を行う。 ⑥「ネガティブ・スクリーニング」は、倫理的・宗教的な理由・(武器、ギャンブル、たばこ、アルコール、原子力発電、ポルノなどで)倫理的でないと定義される特定の業種・企業を投資対象としないやり方。そして、 ⑦「国際規範に基づくスクリーニング」は、国際機関(OECD、ILO、UNICEF等)の国際規範に基づいた投資である。

これらの手法については、弊社も調査票が送られてきて答えるが、複数回答が可能であることに留意すべきである。例えば、弊社の投資手法は、「ESGインテグレーション」であり、「エンゲージメント・議決権行使」でもある。また、我々はクラスター爆弾を作る会社に投資しないのだが、それは「国際規範に基づくスクリーニング」でもある。従って、ESG投資の調査票の数字の解釈には注意をする必要がある。

黒田:2018年の統計によると、ネガティブ・スクリーニングが最も多い手法だが、日本では極めて少なく、欧米がほとんどである。日本で多いのは、ESGインテグレーションや、エンゲージメント・議決権行使。欧米でネガティブ・スクリーニングがこんなに多いのはなぜか。

井口:諸説あるが、海外でのESGの潮流には、キリスト教など宗教に拠るところが多く、倫理的な判断基準で選別していく部分があるからだとする意見もある。それに対して、日本は、先ほど申し上げたようにスチュワードシップ・コードの影響が大きいので、長期の視点で企業を把握しようとする故、ESGインテグレーションやエンゲージメントが主流となっていると思う。ただ、いずれの手法にしても目指すところは一緒である。海外の投資家がネガティブ・スクリーニングで外した企業を見ていると、長期的にリスクが高いところであり、そういった企業はESGインテグレーションの観点からしても長期的なリターンが見込めないので、投資対象から外す可能性が高い。

渋澤:ESGという言葉が使われるようになる前、SRI(社会的責任投資)という概念があった。SRIは、社会的に良い会社は良い株価パフォーマンスがあるいう前提だが、米国的のコンテキストで社会的に悪い会社(カジノ、酒類、タバコ類、等)のバイス・ファンドの方の株価パフォーマンスが高いという話もある。日本においてSRIファンドは個人投資家向けのマーケティングのために組成されたと言っても良いであろう。そのSRIがフェードアウトして、ESGが台頭してきた。ESGには機関投資家の関心が高まった。機関投資家の場合は、運用するお金は自分のものではないから、説明責任が生じる。その説明におけるメジャーメント(測定)としてESGが使えるということだ。機関投資家が入ってきたから、ESG投資の資産総額が大きく伸びた。

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