ヤマハ発動機株式会社

ヤマハ発動機株式会社(以下、ヤマハ発動機)は、1955年に創業して以来、早くからグローバル市場に進出し発展途上国にも参入した結果、現在では200を超える国と地域で製品を販売し、海外売上高比率は90%近くにまで達している企業である。今回はBOPビジネスという言葉のない時代からアフリカで船外機*ビジネスに乗り出し、試行錯誤を繰り返した末にアフリカ全土においてヤマハ機のシェアが75%を超えると言われるまでになった道のりを紹介する。
※船外機・・小型船に用いる、取り外し式の推進エンジン。

■船外機を買いたい人が誰もいない現実からのスタート
ヤマハ発動機が船外機ビジネスでアフリカへ進出したのは、日本政府によるODA(政府開発援助)の機会が得られた1960年代後半である。しかし、進出した当初のアフリカは、近海に魚がたくさん泳いでいるのにも関わらず、海岸で網が広げるような昔ながらの漁法しか知識がなく、そもそも魚を食べる習慣がない国や地域もあるような状況で、とても船外機を売れるような状態にはないことがわかった。

そこで、「船外機を売るためにはまず漁の仕方を教育するしかない」と覚悟を決め、日本の広報部社員がまず北海道から沖縄まで全国の漁師を対象に、日本の水産業のあらゆる漁業技術に関する取材を行った。そして、集まった様々な漁法・網の掛け方・魚の料理法や保存法等の様々な情報を、今度は文字が読めない方にも伝わりやすいように図解と写真、場合によっては漫画まで作成して1冊の本にまとめたという。その後、現地の社員は数カ国語に翻訳されたこの本を配布しながら、漁業技術を現地の人に教育する日々が続いた。

■現地で使う人の視点に徹底的に立つ
このような地道な活動の結果、徐々に漁業用船外機を活用する人々は増えていったのだが、また新たな問題に直面するようになる。船外機のエンジンは使用すると発熱するので、それを冷やすために海の水をそのまま冷却水として使用するのだが、アフリカの場合、泥水のところも多く、部品が傷んで冷却出来ないということが起こったのだ。

そこで今度は泥水でも大丈夫なように対策に乗り出すが、もちろん漁を行う環境自体は変えられない。また不具合が起きた時にも限られた条件の中で基本性能を復元しやすい設計にするため、新製品が出た際も、なるべく同じ部品を使用することで、故障した時に部品の使い回しが出来る様にした。これによって、開発途上国の漁師の人々は船外機をほとんど自分で修理できるようになり、今までよりもかなり長い期間使えるようになったのである。

このようにして、船外機が使われるようになったことで見えてきた問題も乗り越え、現地と共に歩んできた苦労の道のりがそのまま冒頭に記載した現地における圧倒的なマーケットシェアの獲得に繋がったと言える。

■ヤマハ発動機の取り組みから見えてくること
今、BOPビジネスというキーワードが話題になり、多くの企業が自社なりの取り組みを検討しているが、ヤマハ発動機の取り組みは具体的な成功例の1つと言えるのではないだろうか。
・自社の事業がアフリカにおいてどのように貢献できるかを考え、
・日本の漁師関係者等の社外関係者の協力を得ながら、
・アフリカ社会の漁業の発展に貢献する
・その結果として自社の利益に繋がった
というこの取り組みは、短期的な利益ばかりを追求するのではなく長期的な視点で社会的課題の解決に関わることが、結果的に企業の持続可能性を高めることを示唆している。

出所:
機関誌「アフリカ」2011年夏号