【4】渋澤 健

shibusawa_oシブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役の渋澤 健 様にお話をお伺いしました。(2013年12月4日)
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社

9.11がきっかけに

Q:渋澤さんは、日本資本主義の父と言われた渋沢栄一氏(※1)の直系、5代目のご子孫で、渋沢栄一氏の教えを世に広める活動をされていますね。

A:はい、ただ、それを始めたのは40歳になってからです。それまで自分は、アメリカのヘッジファンドの会社に勤め、電話1本で何百億円というお金を動かすような世界にいて、2001年、40歳の時に、独立して会社を立ち上げようとしていました。そして、9月11日にあの事件が起きました。その日、シアトルにいた自分は、真っ青な空を見上げながら、自分の心にのしかかる重たい雲を感じていました。当時、自分にはまだ幼い長男がいて、次男が妻のお腹の中にいたのですが、「戦争とはこうやって始まるのか」とおののいていたところ、ラジオが「International Fountain(噴水の広場)に集おう」呼びかけているのが耳に入り、向かいました。
その噴水の広場には、様々な民族の人が多数集まっていて、亡くなった魂を偲び、花をたむける姿がありました。この人々を結びつけていたのは「共感」でした。「これから自分たちはどうなってしまうのだろう」というサステイナビリティに対する不安であったり、「平和とは当たり前にあるものではなく、自分たちで作り上げなくてはいけないのだ」という思いであったり、への共感です。
栄一の本を真剣に読み解くようになったのは、その時からです。

※1 渋沢栄一:明治から大正にかけ、株式会社の創設と育成に力を入れ、500もの会社に関わり、日本の資本主義の礎を築いた

共感がなければ資本主義は成り立たない

Q:渋沢栄一氏の考えはどのようなものだったのでしょう。

A:日本の資本主義の父といわれる栄一ですが、実は彼は資本主義という言葉は使っておらず、合本主義といっています。栄一は、日本の未来のために国力を高めるには、民間力を結集し、同じ方向に向かわなければならないと考えました。そこで、資本を広く集める基盤として、日本初の銀行を立ち上げたのです。そこに必要なのは「共感」だと私は解釈しています。共感がなければ、人も資本も集まってきません。未来志向で、共感できる何かが、資本主義には必要なのです。
戦後の日本では、「儲けたい」ということへの共感が強くありました。同時に、未来志向、すなわち「今だけ良ければよいのではなく、これから先も」というサステイナビリティに対する想いもありました。それについて、栄一は「論語と算盤」の書(※2)において、次のように説きました。
「経営者一人が大富豪になっても、社会の多くが貧しくなるようでは、持続しない。正しい道理の富でなければ、その富は長続きしない。」
「論語と算盤」とは、「道徳と経済」ということです。栄一は、この2つの概念を「または」でなく「と」で繋ぎました。今のことばでいえば、「CSRか利益か」ではなく、「CSRと利益」。利益のためにCSRが犠牲になってはならないのです。また、CSRのために利益を犠牲すべきとも言っていません。

※2 「論語と算盤」:渋沢栄一氏による大正5年(1916年)の著作。「道徳経済合一説」という理念を打ち出した。

金融機関が果たす3つの社会的責任

Q:渋澤さんは、ご自身でもコモンズ投信での事業を通じて、教えを実践されていますね。

A:自分に子供が生まれ、その子供が成長して何か頑張ろうとするときのための応援資金を作りたいと思い、口座振替で自動的に積み立てる長期投資を個人的に始めました。この自分自身の経験から、こういうことを思う親はたくさんいるはずだから、共感資本が集められると考え、長期的に運用する投資信託の会社を立ち上げる運びとなったのです。
また、ファンドといえば、日本ではハゲタカのイメージが強く悪者扱いされていますが、それは時間軸の違いから生じている対立だと考えます。つまり、ファンドは短期間にリターンを最大化して資本の効率性を高めようとする。一方、日本の経営者は会社の持続性を第一とする経営に取り組みたい。我々の投資信託のファンドは「世代間を超える」という想いを込めた30年という目線の長期投資ですから、投資先である経営者と同じ時間軸に立って対話をすることができます。当社のファンドは、子供や孫といった未来の世代のために、環境が変わっても進化し続けられる優良な日本企業を長期的に応援していく、そんな想いを込めているのです。
私は、金融機関には3つの役割があると考えています。
1つ目は、家計と企業間における資金の循環、2つ目は世代間での資金の循環、3つ目は営利と非営利の間の資金の循環です。当社は3つ目の役割も果たすべく、信託報酬の1%を社会起業家に寄付するという仕組みにしています。我々は、これを社会貢献ではなく、良い社会を築く長期投資だと捉えています。

CSR室は外のことを内に入れる窓口たれ

Q:日本企業のCSRやCSV活動については、どうご覧になっていますか。

A:CSRとは、広報やマーケティングの仕事の一部ではありません。CSRとは、その企業の社会における存在意義を問うことであり、経営の根幹を成すものです。CSR部やCSR室があると、「CSRはそこの部署の仕事」と社員が思ってしまうのはよくありませんね。
そして、CSRの部署の役割は、社外への発信と考えられがちですが、それ以上に、外のことを内にとり入れる窓口であることが重要だと思います。さらに、内に取り入れた後、それが経営陣まで届くかもポイントです。社会と会社の接点は、平時では気づかないものですが、震災のような大きなことが起きると、社内外を隔てる壁が崩れ落ち、気づくようになります。
CSRを担う人はチェンジエージェントであるべきです。パッションが強い人でないとだめですね。実際、CSRをやっている人には熱い人が多いと感じます。

Q:渋澤さんは、(財)日本国際交流センターの理事長も務められる国際派でいらっしゃいますが、グローバルなCSR/CSVについて、日本企業はどうでしょうか。

A:途上国のハード・インフラに貢献する例は数多くありますが、いくら道路がきれいになっても、人が変わらなければ本当の変化は起きません。その意味で、人への貢献がまだ足りないと感じます。アフリカやアジアの人々を、将来の従業員や消費者として見て、もっと「人」に投資することが求められます。味の素のBOPビジネスはとても良い例ではないでしょうか。
CSRやCSVといった「共感」をベースにビジネスを組み立てることは、日本企業にもともとあった考え方であり、けっして世界に引けをとらないと思うのですが、経営トップがもっと世界的課題に関心を持つことが必要だと考えます。世界の成長を日本の家計に取り込むためには、世界の人権問題や安全保障問題など、一見ビジネスに関係なさそうなことでも、課題として認識するべきです。

NPOのリーダーのリーダーシップはすごい

Q:企業とNPOの連携はどうあるべきでしょうか。

A:NPOは経営基盤が弱いところが多いですから、企業がその点で助けられると思っていたのですが、そうではありませんでした。企業では経営のシステムができあがっていて、そのシステムの中でマネージャーは機能しています。一方、NPOは有機的な組織なので、その中に大企業で育ったベテランを入れても、全然だめなんですね。あちこちを向いている職員たちを仕組みなくして束ねるNPOのリーダーたちのほうが、ものすごいリーダーシップを有しているのです。ですから、企業の人は、自分たちがNPOより規模が大きいからといって、NPOに対して上から目線ではいけません。
ただし、企業は、NPOではできないスケーラビリティを促進できる可能性を持っていますから、価値観を共有し、対等なコラボレーションの上で、連携を深めていくべきでしょう。

Q:NPOに対しては、どのような課題意識をお持ちですか。

A:つい先日、パリでEthical Capitalism(倫理的資本主義)というシンポジウムを渋沢栄一記念財団がOECD本部で開催しました。そこで、倫理的資本主義のメジャーメントについて問いかけがありました。つまり、NPOの世界におけるソーシャル・インパクトのメジャーメントです。これは、数値化が困難か不可能な価値、企業でいえば非財務的価値を指しますが、これを測定することが現在の世の中でホットな話題になると思っています。効果は測れるものばかりではないし、測ることが目的になってはいけませんが、測ることを試行錯誤していくことは必要でしょう。
たとえば、世界の3大感染症(エイズ、結核、マラリア)の対策基金として2002年に設立されたグローバルファンドに、第4次増資分として、日本政府は8億ドル拠出することがつい先日発表されましたが、このファンドにアメリカは50億ドルか全体の1/3まで、英は15億ドルで全体の10%まで拠出することを表明しています。米英が財政難の中、これだけの巨額な拠出をする理由のひとつに、グローバルファンドの成果数値指標がしっかりしていることがあります。これまでに、抗レトロウィルス(ARV)治療を受けているHIV感染者が610万人、新規に発見され治療を受けた結核患者が1120万人、マラリア感染予防のために家庭に配布された殺虫剤処理蚊帳が3億6000万張と報告されています。社会的インパクトの実績を定量的に示すことが、継続的な拠出を可能にすることをNPOは認識しなければなりません