【有識者インタビュー】 原田 英治(英治出版株式会社 代表取締役)

Harada-san2グローバル社会問題に関する書籍を数多く出版している英治出版株式会社の代表取締役である原田英治様にお話をお伺いしました。(2013年8月14日)
英治出版サイト

Q:CSR、CSVについて、どのようなお考えをお持ちでしょうか?

A:CSRやCSVといった言葉が大切なのではなくて、社会問題に目を向けることが大切だと思います。社会問題とは、既存の政治システムや経済システムから取り残されたもののことです。つまりは、差(ギャップ)が生じているところ。差があるところに、ビジネスが活躍しうる機会があります。自社の強みと社会問題を掛け合わすことで何かが生まれるのであり、そのことは他の誰もまだやっていないので独占を享受できます。
ですから、ビジネスの成長プロセスと社会問題解決のプロセスは、とても相性のよいものだと思っています。
企業は、社会問題に取り組むことで、社内活性化と、クリエイティビティやイノベーションの創出を起こす要素が得られます。その要素とは、企業ビジョンとのアライメント、多様なる刺激、セレンディピティ(※)、フォーマルとインフォーマルなコミュニケーションです。
(※注:セレンディピティ=何かを探しているときに、探しているものとは別の価値あるものを思いがけず偶然に見つける能力)

Q:企業による寄付といった行為についてはどう思われますか?

A:寄付は一定の割合あってよいと考えています。税制控除の仕組みもあるわけですし。そして、寄付していることを社外よりも社内にアピールし、社員を巻き込んでいくべきだと強く思います。寄付という行為を通じて、先ほど言ったイノベーションの要素を得るきっかけが作れるのですから。つまり、寄付の内容で企業の目指す方向性を社員に伝えることができ、社員が寄付先の現場を訪れることで、多様なる刺激、セレンディピティ、フォーマルとインフォーマルなコミュニケーションが得られる可能性ができます。
一方、「右にならえ」とどこかに寄付をして、そのことについて社員は何もしない、あるいは知らないようなCSRでは、とてももったいない。

Q:英治出版さんのCSR・CSVについて教えてください。英治出版は、数多くの社会問題に関する書籍を出版されています。特にグローバル社会問題の本が多い。アフリカの難民の女性の話など、失礼ながら、一般の大手出版社だったら「こういうテーマは売れない」といって決して取り扱わなさそうなものですよね?

A:当社の場合、CSRを意識してやっているのではなく、当社の企業理念である「誰かの夢を応援すると、自分の夢が前進する」という考えに沿ったメンバーが集まった結果、こういう本のラインアップになったということなんです。
社員は応援したい著者の夢を見つけたら、社員全員が参加する編集会議で、その企画を提案します。全員がその夢に共感したら、企画が承認されるという仕組みです。もちろん、その会議で、「この本の読者はどれだけいるのか?」という意見はよく出ます。全員の賛同が得られない場合は、その企画は保留となります。ただ、あくまでも保留であり、没ではありません。当社では、担当者や他のメンバーがあきらめない限り「没になる企画はない」ことになっています。担当者は、売れるための工夫を凝らして、何度でも再提案することができます。それによって、最低限、自分たちが納得いくレベルの企画にしていくのです。

Q:なるほど、企画は誰かの夢なわけですから、没にしては、人の夢を否定することになってしまうということですね。

A:そうです。結果的に企画を見送ることがあっても、まずは肯定的に社員全員の想像力を駆使することから始まります。私たちは、ビジネスを取引、つまりギブ&テイクという風に考えません。「誰かの夢を応援することで、自分の夢が前進する」ことがビジネスなのです。また、「絶版にしない」という原則があります。著者を応援する気持ちと同時に、長く売っていくことを前提とするので、長く活動してくれる著者であることが条件となります。
それから、今の時代、単行本の売り方というのは変わってきていて、以前のように書店の店頭に並べて手に取ってもらうという売り方だけでは、どこの出版社も難しくなってきています。今は口コミで広がることが有効です。当社の場合、世の中を変えたいと思っている人たちが読者として集まってきています。そういう人たちの口コミ効果が大きいですし、世の中を変えたいと思う人はこれから益々増えていくと思っています。なので、絶版にしないポリシーをもとに、未来にも読者がいる本を作ろうとしているのです。

Book2

Q:原田さんが個人的に関わっている社会問題はありますか?

A:アショカ・ジャパンのアドバイザーをやっています。アショカの「誰もがチェンジメーカー」という考え方に共感しています。
また、最近では、「Run for Congo Women」の創設者であるリサ・J・シャノンさんを応援しています。彼女は、自宅でテレビを見ていて、コンゴの女性の悲惨な状況を知り、何かせねばと思い、走り出しました。チャリティランです。走っているうちに、どんどん賛同者が現れてきて、いままでに10億円以上も集まったのです。僕も、先日、埼玉シティマラソンで一緒に走りました。彼女は制限時間で脱落してしまったのですけども(笑)。
「世の中を変えようと動く人たちは、強烈な原体験を有している」と一般的には言われていますが、彼女は、自宅でテレビを見たというだけのことで、ここまでのことをしたというのは、すごいことだと思いませんか?
グローバル社会の変革には、女性問題を解決することがレバレッジになると思うので、こうした女性問題には注目していきたいですね。

Q:原田さんの知る、企業のCSR、CSVの好事例を教えてください。

A:フェリシモです。事業性と社会性と独創性という3軸でCSRを捉えているところが、とてもよいと思います。たいていの会社は、事業性と社会性の二元論ですからね。また、社員のパワーを信じ、そのクリエイティビティや力を引き出し、顧客にも参加機会を提供するやり方がいいと思います。経営者が指示してCSR部や社員が動く、といった支配・管理のメンタリティや構造で社会貢献しようとするのは、ダメだと思いますね。それではパラダイムシフトは起きません。

Q:最後にNPOへメッセージをお願いします。

A:自分たちの活動やその活動が広まることによって、政府のコストをどのくらい下げることに貢献できるのかということを意識し、かつアピールしてほしいですね。そうすることで、NPOの活動が政府による活動より効率的であることを示すことができ、支援の受益者のみならず、税金を納める人々からも感謝されます。より多くのありがとうを得て、自分たちの活動に誇りを持って、より大きなスケールを目指してほしいです。