第9回GEI有志会レポート「SDGs:私たちが望む未来」

1.「日本企業のSDGsへの取組みの現状と課題」(デロイト トーマツ コンサルティング合同会社シニアコンサルタントの山田太雲氏)

第9回GEI有志会/品川塾では、最初に、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社シニアコンサルタントの山田太雲さんに「日本企業のSDGsへの取組みの現状と課題」についてお話しいただきました。山田さんは、現在は企業のCSV/サステナビリティ戦略を支援する仕事をされていますが、前職では、世界的なNGOであるOxfamに所属し、MDGs(Millennium Development Goals)の時代から政策提言の仕事に従事されていました。SDGs採択の場にもいたりしたそうです。以下はその要約です

◆SDGsの17のゴールと169のターゲットを読むだけでは不十分

SDGsは17のゴールから成るものであることは知られてきているが、その17のゴール、あるいは169のターゲットを読むだけでは、SDGsの本質は理解できない。SDGsを生み出した時代背景、これを貫く思想、それらがこれからの経済モデルやビジネスモデルに与える示唆などを含め、深く理解する必要がある。

SDGs採択のステートメント(宣言文)の中には、SDGsに関連した問題意識や切迫感が表現されているので、読むに値いする。17のゴールにはステートメントに出てくるような言葉や概念が抜け落ちてしまっている。たとえば、マクロ統計ではなく人権をベースとしていること、あるいはその実施原則として、包摂性、普遍性、衡平性、統合性、参加型、透明性・説明責任などが謳われているといったことである。

SDGsの指標はまたがって使われていて、17のゴールは相互に関連していることも理解しておかなければならない。

◆SDGsに関与しているだけでは不十分、問われるのは「関与の質」

日本企業の様子を見ていると、MDGsのときとは比べものにならないほど、DG(開発目標)への関心が高まっているようである。しかし、実際、SDGsに対して何をしているのかというアンケート調査を見ると、「理解する」にとどまっているのが半数以上である。

先進事例であるユニリーバでは、「持続可能な世界の創出」を事業戦略の根幹に据え、Sustainable Living Planという事業計画を打ち出している。そして、Sustainable Living Brandの売上げが、その他のブランドより1.5倍の伸びているとのことである。

企業としては、こうしたSDGsへの取組みだけではなく、SDGs ウォッシングも厳しくウォッチされていることを認識しなければならない。SDGs ウォッシングとは、「『やっています』といいつつ、負の影響を及ぼすこともしていること」を指す。たとえば、「電気自動車を作り、CO2削減に貢献している」と言いつつ、その車のバッテリーのコバルトが児童労働によって採取されていたら、SDGs ウォッシングに当たる。

去年のダボス会議から出た『Better Business, Better World』という報告書では、SDGsには年間12兆ドルのビジネスチャンスがあると記され話題を呼んだが、同時にSDGsの実現には、市場シェアや株価を上げるために投じる努力と同じくらいのものを社会と環境のサステナビリティに投入しなければいけないとも言っている。それだけの覚悟が問われるのである。

◆潮流を先読みし、かつ潮流を形成する側に回れ

よくSDGsの取組みには、守りと攻めがあるといわれる。守りは、コンプライアンス対応やNGOにたたかれないようにすること、攻めは事業機会に結び付けることである。しかし、その2つに加えて、3つ目があると考える。それは、SDGsが問いかける従来のビジネスモデルの持続可能性、すなわち「土台」となるべきものである。

たとえば、ユニリーバは、パーム油が入手できなくなったら、ビジネスが維持できなくなる。そこで、パーム油の持続可能性が担保されるビジネス環境を作っていかねばならないと考える。しかし、そうしたことは個社の努力だけでは無理なので、国連機関やNGOなど幅広いステークホルダーに働きかけ、行動基準を制定し、その枠組みに他の企業も参加せねばならないような状況を作り出した。つまり、ルール形成をしたのである。

社会課題起点でビジネス慣行に対する法令(ルール形成)や評価機関のインデックス組み入れなどが次々に起きているが、どれも最初は社会課題の現場における個別具体的な「事件」に対するNGOの私的・批判などが発端。それがいずれ業態が抱えるリスクとして認識され、ルール論議に入る。しかしその段階での情報は海外メディアには出ていても日系紙には出ていないことが多い。日本語で情報が届き始めるのは、せいぜいルール策定プロセスの後半の、無味乾燥な用語で語られる段階になってからであり、背景にある問題意識が肌感覚ではつかみにくい。結果として日本企業はよく理解できないままコンプライアンスを甘受せざるを得ない状況に追い込まれる。

ルールができてから対応するという受け身の姿勢ではなく、社会課題を起点にステークホルダーが繰り広げるアジェンダ設定からルール形成のプロセスに参画することで、社会との摩擦を回避し、かつ社会をパートナーとするビジネスが可能になる。

 

2.「SDGs:私たちが望む未来」(国連開発計画(UNDP)駐日代表の近藤哲生氏)

ゲストスピーカーである国連開発計画(UNDP)駐日代表の近藤哲生さんに、「SDGs:私たちが望む未来」と題して、お話をいただきました。以下がその要約です

◆Sustainability、そしてSurvivability

開発目標になぜS(Sustainable)が付いているか?このままではSustainable(持続可能)ではないからである。これまで地球の歴史において、多くの種が進化したり絶滅したりしてきた。世界中の国がSDGsに合意したのは、人間の活動により、人間(ホモサピエンス)という種が絶滅するかもしれないという危機感を共有したからである。京都大学のある先生は、SDGsのSは”Survivability”だと言った。国連の取組みへの民間による関与、企業の対応といった話は過去にもあったことであるが、今回は、その先にサバイバルがあることが重要なポイントである。

◆国連とUNDP(国連開発計画)

国連の枠組みをうまく使うことで、個人や一国ではできないことを成し遂げることができる。そして、SDGsは国連と民間との距離をぐっと縮めたものだと言える。

その国連であるが、73年前に戦後の集団安全保障を目的に設立された。その後、途上国の独立など世の中が大きく変わり、国連の役割も進化していった。現在は、平和・人権・開発の3つをミッションとしている。

UNDPは、国連システムの中で中核的な開発機関であり、世界170の国・地域で活動している。途上国に対し、国の運営に関する技術移転の促進を目的とする問題解決型の組織であり、活動領域は次の6つである。

① 貧困の根絶  ② 国家の仕組みの整備  ③ 災害などへの危機対応力強化  ④ 環境保全  ⑤ クリーンエネルギーの普及  ⑥ ジェンダー平等の実現

特に2番目の「国家の仕組みの整備」あるいは「国家のガバナンスの整備」はUNDPの特徴といえる。UNDPが途上国に対し、「あれをしろ、これをしろ」と指図するのではなく、運営の主体は途上国にあるとの前提で、助言をする立場にいる。自分自身も、チャドやコソボといった国に駐在していたが、その国の首相や大統領に「お仕えをする」というスタンスで仕事をしていた。

また、3番目の「災害などへの危機対応力強化」は、世界に誇る日本の強みが発揮できる分野である。これまで3回開催された国連防災世界会議は全て日本で行われた。連続して3回も日本国内で国連の会議が開催される例は他に見ない。

UNDPは各国の課題解決すなわちお悩みごとに応えるSolution Finderともいえる。Solutionのためにあらゆる団体に声をかけ、様々なところに出向き仕事をする「インテグレーター」である。Developmentという言葉は、De(除く)+Velop(包む)+Mentに分解できる。つまり人間の可能性を解き放つことを意味する。UNDPは、「bring out the potential of people(人間の可能性を引き出す)」ことを目指している。

日本はUNDPの最大の拠出国の1つである。財界のプレゼンスも高く、UNDPと日本政府などが共催するTICAD(アフリカ開発会議)にも多数の財界人が出席している。

◆SDGs達成に向けて

SDGsの取組みでは、経済価値だけではなく、社会的価値も創出できなければ評価されない。例えば、UNDAF(国連開発援助枠組み)に置いては、各国の開発・取組へのSDGsの統合がすすんでおり、社会的価値の指標として次の6つを挙げている。

  1.  成果に焦点をあてたプログラム
  2.  キャパシティ開発
  3.  リスク・インフォームドプログラム
  4. 一貫した政策支援
  5. 開発、人道、平和構築の連携
  6. パートナーシップ

SDGsは、国連自体のあり方のイノベーションの契機であるが、企業にも是非SDGsをイノベーションの機会として活用していただきたい。それを促進するために、SHIP (SDGs Holistic Innovation Platform)を立ち上げ運営している。また、Business Call to Action (BCtA)という、商業目的と開発目的を同時に追求するビジネスモデルを模索し、促進する取組みも行っている。いくつもの日本企業がBCtAに参加していて、サラヤ株式会社などの成功事例がある。

SDGsの達成に向けて、今必要なことは2つある。1つは各国政府のリーダーシップ、もう1つは新しいパートナーシップの形成である。各国政府のリーダーシップ発揮を促すには、納税者たちがもっと声をあげていってほしい。たとえば、世界に8億人近い人が貧困や飢餓に直面しているこの現状を訴えるといったことをしてほしい。

新しいパートナーシップ構築のためには、セクター枠、ジェネレーションの枠、会社の枠、部署の枠を超えて連携していく必要がある。そのときに共通言語となりうるのがSDGsである。実際には、東北大学・富士通・UNDPの連携によるデータ活用による効果的災害対策やトヨタイラクとUNDPによる国内避難民の職業訓練・就業支援といった例がある。

 

3.最後に、渋澤健ならびに会場から、次の質問が投げかけられ、山田さんと近藤さん両氏にお答えいただきました。

  •  SDGsの認知はだいぶ広まってきたが、SDGs ウォッシングではなくちゃんとしたSDGsの取組みかどうかを見極めるためには、何を見ればよいのか
  •  「SDGsは共通言語」という話があったが、現状ではNGOと企業は川の両岸で激しく打ち合っているイメージがある。NGOと企業がSDGsを共通言語として共に動くには、どうすればいいのか
  •  統合報告書は、以前は、年次報告書とCSR報告書の2つをくっつけただけのようなものがよく見られたが、報告書を統合するのではなく、組織を統合することが大事であるはず。どう考えるか
  •  この2年間でSDGsの認知度は上がっていると感じるか。海外と比べるとどうか
  •  ある経営者の方が「知らないところでルールが決まってしまうんだよね」とぼやいていた。ダボスのビジネスカウンシルでは、世界のリーダーたちが集まってビジネスの方向性を議論し定めている。そこには欧米人だけでなく、インド人やシンガポール人がいたりするが、日本人はいない。どうしてこういうことになるのか
  •  国連へのコア拠出金とは何か
  • コード(code)に日本人は弱い。コードができると、それに従わなければならず、義務的でネガティブな感じがある。クリエイティビティも損なわれる。しかし、SDGs達成のためには、コード化が有効なのだろうか