2017年度第3回GEI有志会レポート「資本市場はSDGsにどこまで本気か?」

2017年度第3回GEI有志会では、株式会社大和総研主席研究員の河口真理子さんにご講演いただきました。50分間に渡り、畳みかけるように繰り広げられたファクトや事例、主張のうち、ほんの一部しかここで紹介できないのが残念です。

以下、河口真理子様講演趣旨

河口さんの講演は次のコメントによって幕が開きました。

「社会・地球環境に対してどういうイメージを持っているかによって、やるべきことは変わってくる。今の地球環境・社会のままで100年後も平穏無事と思っているのであれば、SDGsのような面倒なこともやらなくてよいということになろう。しかし、今、我々のグローバル社会が直面している問題は、大げさではなくまさに人類の生死に関わる問題である。SDGsは単に新たなビジネスチャンスだからやろうとかいう次元の話ではない。」

このような前置きをした上で、World Ecological Footprint、枯渇する資源や生態系、二酸化炭素排出量と気候変動、経済格差問題などについて、次々とデータを示しながら、いかに現状が危機的であるかを説明されました。そのような状況下、SDGsを、「『経済>地球』というこれまでの間違った認識を正し、パラダイムを転換し、『地球の循環に生かされている人間社会を再発見する格好なツール』」と位置付けられました。

国際社会における温室効果ガス削減に関するパリ合意や国連のSDGs制定を経て、今や、企業、業界団体、投資家、地方自治体等ありとあらゆるところでSDGsが語られるようになりました。ただし、SDGsという言葉だけでなく、SDGsにある17の各項目が目指すゴールについて考え行動していくことが大事だと強調されました。

例えば、世界は脱炭素に向かっている中で、「日本企業はグローバルトレンドから超ずれている」と手厳しく断じます。その理由として、再生エネルギー100%にコミットする企業イニシアチブであるRE100には世界各国106社中1社(※2017年11月30日現在では、全体が117社に、日本企業は3社に増えた)しか入っていないこと、あるいは、アップル社は、93%まで炭素フリーを達成できているのだが、未達分の7%は日系のサプライヤーに起因しているということをあげられました。

また、パリ合意で示されたような地球環境・気候変動に対する危機感が広まってきたことが、近年、ESG投資が急速に注目されている背景にあります。その中で目立った動きが化石燃料関連企業を大手の投資家がダイベスト(投資対象からはずしてしまう)する傾向です。さらには、PRI(責任投資原則)署名機関は炭素排出量上位企業に対し積極的にエンゲージメントをし、脱炭素にむけた対策を働きかける動きが生じているそうです。

現在、PRI(責任投資原則)に署名する機関は2017年11月16日時点で1821機関、そして世界のESG投資の規模は2016年時点で22.9兆ドルであり、運用資産のうち約3割を占めています。特に欧州では6割に上っていて、「ESG投資はもはやメインストリームとなっている」のだそうです。

また、アメリカではリーマンショック時の2008年にはCFA協会がESG投資のマニュアルを出し、「企業価値評価にESGが不可欠である」と説いています。またSDGsに着目する動きもあり、オランダの年金基金は最近、SDGsをベースにしたESG投資の評価指標を作成し、世界中の投資家に活用を勧めるといった動きが起きているとのことです。

翻って日本では、2015年にGPIFがPRIに署名して以来、追随する機関も増え、署名機関数はGPIF署名前の33から60機関に増えました、それにつれ、日本のESG投資残高は2016年3月末で57兆円、2017年3月末で137兆円と急速に拡大しここに来て、やっと日本も動きが加速化し世界の動きにやっとついてこれるようになったと評価されるようになりました。しかし、これでも日本の市場規模を考えると圧倒的に少ないといえます。最近の加速化のきっかけとして、安倍首相が国連総会でのSDGs受託演説(2015年)にて、日本はGPIFがPRIに署名し、金銭面でもSDGsをバックアップすると宣言したことがあります。ですから、GPIFはSDGsをベースにしたESG投資を意識していて、GPIFからの運用受託機関もESGやSDGsを考慮せざるを得ない状況になってきているとのことです。それは、これからESG投資家と対話する企業はSDGsに基づく中長期戦略について訊かれるようになることを意味するのです。

さて、ESGと企業価値の関係ですが、いくつかのデータと使って、ESGと企業価値には正の相関関係があることを示されました。そして、今や機関投資家は、ESGやSDGsの取組みは、実質的な価値を持つと捉えているそうです。

最後に、「2005年までは投資家がESG要因を考慮することは運用者の個人的信条を投資費反映させる行為であり受託者責任義務違反と考えられていたのが、2005年からはパフォーマンスが同等であれば許されるようになった。さらに2015年からはESG要因の適切な考慮は受託者責任の必要事項と見なされるようになった。ESG要因を見ていないということは目先の財務には関係ないけれど企業価値に影響を及ぼす非財務情報を見ていないことである。これらESG情報の意義とは、企業の文化や体質、長期的な視野をもつ経営者がいるか、というような企業の長期的トレンドラインを示すものだから」と総括されました。

講演のあとは、渋澤健氏から河口さんに次のような投げかけがあり、二人の対話が繰り広げられました。

  • 先日、ある企業の専務の方が「米国から来た年金基金の投資家にESGの取組みを話したら、ESGは関係ないと言われた」と言っていた。欧州と米国ではかなり温度差があるのではないか?
  • 米国というのは、元々、フロンティアがありどんどん開拓していけばよいという感覚があるのに対し、欧州にはフロンティアがない。そういう意味では、日本は欧州に近い感覚では?
  • 日本でのESGは、G(ガバナンス)ことばかりと言われるが?
  • オランダから来日した機関投資家と弊社と投資先との共同対話会をしていたときの話だが、そのオランダの人いわく「まずはGがしっかりしていないと、EとSもできないから、Gから始めるのでいいのではないか」と言っていた。また、非財務情報のことをNon-Financial Infoではなく、Not-Yet-Financial Infoと呼んでいて、なるほどと思った。いずれにしても、投資家と企業との対話が大事であり、自分たちが社会課題の当事者と思えるかが大事であるが、そう思えない人がいるのは、何が欠けているからか?
  • 以前に統合報告書の審査委員をやっていたのだが、最初の頃は、統合というより、ホッチキス止めという感じだった。しかし、最近はレベルが高くなってきたようだ。うまくやっている企業の例は?
  • 日本人は互いに学ぶのが早いし、良い感じで進展しているように感じる。一般人の間では、日本のほうが米国や欧州よりSDGsの認知度は高いのではないかという気もするが?
  • ただ、日本企業は以前から環境問題には取り組んできたが、人権への関心が薄かった。しかし、この1年くらいで急に人権への取組みが取り上げられるようになった。それはなぜか?
  • 突き詰めれば、環境も含めSDGsの諸問題は人権問題が根本にあるといえるのでは?

冒頭の金山さんの話で、「日本企業がいう三方よしと社会課題解決型経営戦略は違うのだ。3つの要素の順番を並び替えて考えるべき」という説明は参考になった。渋沢栄一が言っていた「論語と算盤」は三方よしと同じだとよく言われるが、そうではなく、社会を高めるために何が必要かを考えることを言っている。