第11回GEI有志会レポート「ものづくりを通じたひとづくり~世界の人々がライフスキルを身に着けるまで」 (レポート)

第11回のGEI有志会/品川塾は、カンボジアで10年以上活躍するNPO法人SUSUの創設者であり共同代表である青木健太氏をゲストに迎え、「ものづくりを通じたひとづくり~世界の人々がライフスキルを身に着けるまで」をテーマに2018年9月19日(水)に開催しました。
以下がお話の概要です。

NPO法人SUSU共同代表青木健太氏

前向きにワクワク生きられる人を一人でも多く

東京大学在学中の2002年に、カンボジアにおける子どもの性的搾取の撲滅を目的とした認定NPO法人かものはしプロジェクトを仲間と共に創業した。 2008年 にはカンボジアへ渡り、最貧困層の女性を雇用しハンディクラフト雑貨を生産・販売するコミュニティファクトリー事業を統括するようになった。「子どもが売られる問題」の根底には貧困問題があるとの考えからである。

やがて16年たち、カンボジアの「子どもが売られる問題」は解決に向かい、かものはしプロジェクトはインドに活動拠点を移すこととなった。自分は、カンボジアに依然として残る様々な問題に対処すべくコミュニティファクトリー事業を継続したいと考え、かものはしプロジェクトからカンボジア事業部を独立させる形で、2018年4月からNPO法人SALASUSUとして新しいスタートをきった。そのときに打ち立てた自分のライフミッションは「人が素直に前向きにワクワクして生きられる世の中を作る、一人でもその変化を多く見てから死ぬ」である。

送り出した女性が4日で工場を辞めてしまった理由

SALASUSUでは、工房を「学校」と位置づけ、2年間ここで学びながら働いたあとに「卒業」し、どこかの企業に就職してもらうという形式をとっている。カンボジアは現在、急速に経済発展をしていて、安定した給料をもらえる仕事が増えてきているからである。

都市部は急速な経済発展を遂げ、たくさんの働き口もある一方で、農村部では、貧困のために中学校を途中で辞め日雇い労働をして家計を支える女性が今でも多くいる。私たちの工房で働いていたある女性が、都市部の工場での就職を決め工房を卒業することになった。給料が4倍になり、家族との暮らしがさらに豊かになると皆で喜んだ。ところが、4日目に辞めて村に戻ってきてしまった。理由を聞くと、「住む家が見つからないから」と言う。愕然とした。「住む家が困っていたのなら、会社の人事部に相談するとか、同僚に相談するとかすれば、どうにかなったはずだ。なぜ、もうちょっと頑張ろうと思わないのか」と。しかし、よく考えると、彼女が頑張れないのは彼女個人の問題ではない。これが、内戦により150万人もの知識層が虐殺され、100万人もの出稼ぎ労働者がいて、絶対貧困率が18%という国の現実なのだ。

そこで、私たちが出した答えは「ライフスキル教育」だ。ライフスキルとは、日本人なら、家庭や学校環境の中で時間をかけて身に付けることのできる「頑張る技術」である。ライフスキル教育提供によって、「カンボジアの女性の人生の旅を応援する」ことに決めた。「ものづくり」を通した「ひとづくり」だ。ちなみに、団体名のSALASUSUは、クメール語でSALA=学校、SUSU=頑張る、の意味である。

ライフスキル教育を世界中へ広げたい

SALASUSUでは、貧しい農村家庭の女性を工房に雇用する。実際に応募者の家を訪問し、経済状況や家庭環境などを審査した上で採用を決定している。そして、2年間、カバンなどの生産活動に従事させ、給与を支給することで安心して生活できる環境を担保しながら、勤務時間の20%をライフスキル教育に充てている。

今、60種類以上あるライフスキル教育プログラムは、主に次の6つのカテゴリーから成り立っている。

ライフスキル6つの要素

これらを教えるときは、一方的に教えるのではなく、楽しく参加できるように工夫をしている。たとえば、対人関係のプログラムでは、同僚の良い点を探して伝えるということをやっている。「そんな単純なこと」と皆さんは思うかもしれないが、教育の機会に恵まれず、生まれてから限られたコミュニティの中でのみ生活してきた彼女たちにとっては、こういったことすら最初はなかなかできない。そのスキルを楽しく学べるよう、ビンゴゲーム方式でやったりする。ちなみに、カンボジア人はビンゴゲームやくじ引きなどで大盛り上がりする。そうやって、良いところを人に伝えたとき、あるいは自分の良いところを言ってもらったときの気持ちよさを体験してもらうのがポイントである。

自分たちが手づくりした60種類以上のプログラムの全ては、こうした体験学習を基本としており、トレーナーは全員カンボジア人である。

研修で盛り上がって、そこで終わりではいけない。ものづくりの現場で学びを実践し、実際に行動が変わるようにフォローしなければいけない。それを後押しするのが、「愛ある職場」である。大事なのは、スキルを実践してみた人がいれば、周囲がそれを認知し、称賛することである。それが、自信となり、実践の継続につながり、やがて習慣となっていく。

さらに、働く女性たちの現場での行動変容を指数化し、同僚同士の観察を通して、研修の成果を測り、見える化している。そして、実際に測ってみると、5か月間のトレーニングを通じて、6つのカテゴリー全てにおいてスコアがアップしている。

自分たちの小さな工房で始めたこのライフスキル教育が、今年に入って、カンボジア内に広がる動きを見せている。カンボジア政府の職業訓練所や現地企業、現地NGOなどからライフスキル教育の提供を依頼されるようになった。2024年からはこれを全世界に展開していくことが私たちの夢である。社会との関わり方がわからず、社会からはじき出されてしまう人というのは日本にもいる。世界各地にいるそういった人たちが、いつでもどこでも安くライフスキル教育を受けられるような世の中にしたい。そのために、ライフスキルのトレーナー養成事業にも力を入れ始めている。

ものづくりを通して新たなる資本主義の在り方を提案

私たちの活動費のうち7割はかばんやハンカチの物販による収益で賄っている。それ以外は寄付等であるが、NPOにとって7割を自分たちで稼いでいるということは、団体の持続可能性にとって大きな意味がある。そして、ものづくりの力をもっと進化させたいと思っている。

私たちのところにいる女性たちには、beneficiary(受益者)ではなく、producer「他人に価値を提供する人」になってほしいと思っている。NGOでは、一般的に「受益者」という言葉を使い、「かわいそうなこの人たちに施しを」という発想になりがちであるが、それをやり過ぎると、その人たちの自立を妨げることにもなる。一方、ものづくりは、ものを作る人が、他人に価値を提供することができるようになるという素晴らしい方法だと考えている。

私たちの商品は日本の百貨店でも売られているのだが、人がものを買うとき、それを作った人のことなど気にしないで買うのが普通だろう。買う人が、誰がどんな想いで作ったものなのかを感じられないのは、あまりにもったいない。そこで、私たちは、商品のラベルに、作った人が名前スタンプを押し、誰の手によって作られたものなのかわかるようにしている。また、ラベルにあるQRコードをかざすと作った人の動画を見ることができる。さらには、買った人が私たちの工房を訪問できるチケットを配っている。このチケットは一見、飛行機のチケットのようだが、飛行機代は含まれていない(笑)。、女性たちがものづくりに取り組む工房を無料でご案内するというチケットである。商品を買った人と作った人との出会いを願ってやっている。

このチケットを配り始めたのは今年の4月からだが、すでに11人の方が、自分で飛行機代を払って、私たちの工房に来られた。また、渋谷ヒカリエの催事で販売したときは、インスタグラムを使って、買った人と作った人を1枚の写真に納めるということをした。

私たちは、小売りを通じて、社会を変えたい、変えられるのではと思っている。買い手が、1円でも安ければ何でもいいと思えば、児童労働や崩壊するような工場で製品が作られることになる。しかし、買い手が、どんな工場で、どんな人が作っているのかを感じながら、その作り手を応援したいと思いながら買うようになれば、社会は変わるのではないか。そのため、買い手と作り手を繋げ、透明性・トレーサビリティを楽しみながら確立していきたい。そうすれば、今の途上国に見られるような、労働者の人間性を顧みず、効率性と品質だけが追求され、働くのが辛いだけの工場が減るのではないか。

ただし、購買の過程には、買い手が①まずパッと見て「かわいい!」と思って手にとってみる、⓶手に取って品質と価格のバランスを見る、③その上で、その商品の裏にあるストーリーを見るという順番がある。したがって、たとえNGOであっても、デザイン、品質、値段で買い手に選ばれるものを作らなければならないと考えている。そして、作り手一人ひとりが責任を持って良いものを作るという意識を持つことを重視している。

買い手も作り手もそういった意識を持つことで、「やさしい資本主義」を広げていくことを提起したい。

現地トレーナーをしているチョーイさんとの対話

青木さんのお話の後には、スカイプでカンボジア現地と繋がり、プロダクション部の副部門長を務めながらトレーナーをしているチョーイさんと会場の対話が行われました。

「トレーニングの中で安全安心の場を作ることがトレーナーとして大事な役割であると伝えています。チョーイはそのような場を最も上手に作れるトレーナー」と青木さんはチョーイさんのことを紹介しました。実際に、会場からの質問を受ける際に、必ず質問者に対し「質問をありがとうございます」と言う姿に、会場がほんわか暖かくなりました。質問に答える形でチョーイさんは次のような話をしてくれました。

一番、気に入っているプログラムは問題解決スキル。受講者が「問題解決は楽しい」と感じることが大事なので、ペーパータワーといったアクティビティやゲームを行っている。どうしたら紙を使って限られた時間でタワーを作ることができるか、という問題にチームでアイデアを出し合いながら挑む楽しい体験をしてもらっている。

ライフスキルトレーニングの講師はファシリテーターである。ファシリテーターのマインドセットとして、受講者が発することすべてを受け止めるということがある。受講者が間違ったことを言ったとしても、それを否定するのではなく、まずは受け止める。そして、質問を投げかける。受講者から質問から出たら、ファシリテーターがすぐ答えるのではなく、他の受講者に答えを考えさせるようにしている。

もっとも充実感を感じられるときは、受講者にストーリーテリングをしてもらうとき。たとえば、最もハッピーだったときについて語り合ってもらう。次に、辛かったときのストーリーも共有してもらう。そうすると、受講者同士の相互理解が促進され、絆が深まる。そして、職場で困難に直面したときに助け合うようになる。

苦労するのは、学力にばらつきがあること。人によって学びのスピードが違う。私たちは「Everyone can learn:誰しもが学べる」という信念を持っているので、一人ひとりが学べているかどうかを観察する。楽しみながら学ぶのは大事だが、楽しむだけにならないよう、知識の付与や交換がなされているか確認するようにしている。

 

最後に、会場から青木さんに次の質問が投げかけられ、青木さんが丁寧にお答えになりました。

・   このような活動に大変共感するが、NPOに就職したら実際に食べていけるのか?知り合いに、ウガンダで同様のことをやっている人がいて、その人は株式会社にしている。株式会社でやるのとNPOでやるのは、何がどう違うか。

・   女性にフォーカスされているが、東南アジアでは、暇を持て余している男性をよく見かける。男性をターゲットしようとは思わないか。

・   工房で働く女性をスカウトされるとき、どんな基準で選んでいるのか。

・   自分たちは資本主義の中で問題解決力や対人力を身に付けてきている。SUSUの優しい環境の中で育てられた人たちは、その先、どうキャリアアップしていくのか。民間企業の中でやっていけるのか、それとも資本主義的でない職場で働くことになるのか。

・   ソーシャルベンチャーに投資する団体に所属している。お金を拠出してくれる企業は、ソーシャルマインドが高い欧米企業などだが、彼らは、雇用の人数や所得がどのくらい増えたのかといったことを厳しくチェックする。しかし、人がどう育ったかということには全く目が向いていない。SALASUSUがここに注目するに至ったのはどういうことなのか。

・   欧米系はNPOへの資金の出し手として、圧倒的。測定可能な社会的インパクトを重視する欧米系にどうアピールするのか。

・   現地で育て現地で就労させている青木さんから見て、日本の外国人技能就労制度をどう思うか。

ーーーーーー
第12回のGEI有志会/品川塾は、近年、世界中で大きな注目を集めている海洋プラスチック汚染問題を取り上げ、12月3日(月)に開催いたします。京都大学の研究室から生まれ、「科学技術の力であらゆる環境問題を克服する」をミッションに掲げる
株式会社ピリカ /一般社団法人ピリカの創設者であり代表である小嶌不二夫氏をゲストに迎え、「海洋のプラスチック汚染を阻止する!」をテーマにお話しいただきます。
↓詳細はこちら
http://www.globalcsr-pfc.com/1812gei12/