【NPOインタビュー】特定非営利活動法人 ACE

2015年の国連総会で採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」における17の目標の8番目に掲げられた「働きがいのある人間らしい雇用と経済成長」には、「2025年までにあらゆる形態の児童労働を撤廃する」というターゲットがあります。すでに2000年には、国連グローバル・コンパクトが発足し、人権、労働、環境、腐敗防止の4分野における10原則が打ち出されています。2011年には国連ビジネスと人権に関する指導原則が承認され、同指導原則に基づいた国家行動計画の策定が、各国で開始されています。また、イギリスは企業のサプライチェーンにおける強制労働と人身取引について確認し、報告する義務を課すという現代奴隷法を2015年に制定しました。今や、児童労働の撤廃は、グローバル企業が率先して取り組むべき社会課題と見なされるようになっています。今回は、児童労働の問題に早くから取り組んでいる特定非営利活動法人ACE代表の岩附由香さんにお話を伺いました。(2017年3月24日) →映画「バレンタイン一揆」のコラムはこちら

■ACE設立の経緯について教えてください。

きっかけは1997年、世界的なムーブメント「児童労働に反対するグローバルマーチ」の存在をたまたま知ったことです。国際事務局から日本国内の団体に参加の呼びかけがあったのですが、どの団体もやらないということがわかり、それなら自分たちでやろうと学生5人で団体を設立しました。 当初は6か月間という期間限定の活動のつもりだったのですが、グローバルマーチの反響が想像以上であったこともあり、時を経て2000年に同じメンバーで集まった際に活動を再開することを決意し、2005年に法人化して現在に至ります。 ただ、私自身は法人化した当時から専従だったわけではありません。最初のうちは、通訳の仕事と両立しながら活動を行っていました。しかし、通訳学校の先生に「どんな通訳になりたいか、目標を書いて下さい」と言われて、何も書けなかったんです。その時、自分の将来は、国際会議の場でブースに入って誰かのスピーチを通訳するのではなく、スピーチをする側に立つことなんだと気づいてしまったのです。また、アメリカのNPOでフェローとして働いた経験から、他の職業と両立するよりも、活動に集中して取り組んだ方が成果を上げられるという感覚も得て、2007年からACEの活動に専念することに決めました。

■ACEの事業内容について教えてください。

ACEはビジョンに掲げている「すべての子どもが希望を持って安心して暮らせる社会」の実現のために4つの事業を行っています。

1.子ども支援事業
児童労働から子どもを救出し、教育を受けられる機会を増やす活動。 児童労働の6割は農業分野であることから、農業を行う地域を主な活動のフィールドにし、ココアを栽培するガーナでの7村とコットンを栽培するインドでの2村で、支援活動を展開しています。活動の成果として、これまでに児童労働から抜け出した子どもの人数が累計1,637人、教育支援を受けている学齢期の子どもの人数が13,000人以上にまで達しています。

2.アドボカシー事業
児童労働問題の重大性・緊急性への理解を高める活動。 2015年にはACEが事務局を務める児童労働ネットワークによる「ストップ児童労働50万人署名」により合計51万筆を集めることが出来ました。その署名は2016年1月に外務省、6月に厚生労働省、文部科学省にそれぞれ提出し、説明を行いました。大臣、政務官からは問題を理解し、できることを行っていくとのコメントをもらっています。

3.啓発・市民参加事業
講師派遣、教材販売、映画上映によって児童労働の撤廃・予防を支持する消費者を増やす活動。 講師派遣イベント参加者は毎年5,000名を超え、設立15周年を記念して制作した映画「バレンタイン一揆」(コラム参照)の観客動員数も通算1万人を超えています。

4.ソーシャルビジネス推進事業
企業との協働により、児童労働の撤廃・予防を推進する活動。 主な内容は、フェアトレードに基づいたチョコレートやコットン製品の販売と、SA8000*認証有資格者によるサプライチェーンのコンサルティングの2つです。 具体的な事例として、1つめに関しては森永製菓株式会社との協働で毎年実施している、対象商品1箱につき1円が寄付として積み立てられる「1チョコ for 1スマイル(http://acejapan.org/choco/1choco-for-1smile)」のキャンペーンがあります。 ※SA8000(Social Accountability 8000)とは、ソーシャル・アカウンタビリティ・インターナショナル(Social Accountability International)によって1997年に策定された労働に関する国際規格で、世界人権宣言、ILO条約、国連子どもの権利条約など人権と労働に関する国際条約や勧告に基づいた社会的認定基準を示しています。

■企業との協働においては、どのようなことを感じていますか?

児童労働に関する理解は、日本国内でもここ数年でずいぶんと進んできています。以前は、一次サプライヤー以降の労働状況はわからなくても仕方がないという状態でしたが、今はわからないことによるリスク等の危機意識を企業は持っています。そして、企業のCSR担当者の間では、「児童労働問題といえばACE」と言っていただけるようになり、協働しやすくなったと感じています。 ただ、経営陣が児童労働に対する問題意識をどれだけ強く持っているかで、取り組みの進めやすさは大きく異なるので、もっと多くの経営陣に問題を理解してもらえたらとも思っています。私は、2015年の国連SDGs採択サミットのときにニューヨークにいて、サイドイベントに参加していました。世界中から数多くの企業も参加しており、マスターカードの副社長など、登壇する欧米企業の方の地位の高さに驚きました。しかし、日本企業といえば、1社が参加しているのみ。日本企業の経営層の関与の低さには課題があると感じています。SDGsの目標達成のためには、企業の力は不可欠であり、問題について理解を深めてもらうことはとても重要です。

■今後は企業とどのような形で協働していきたいですか?

先ほどの体験もあり、日本企業との協働だけに囚われる必要はないと考え、海外の企業ともサステナビリティを追求していく上でのパートナーとなりたいと考えています。そのために、団体のキャパシティやケイパビリティを向上させる必要がありますし、カカオやコットンの業界団体が集まる会議にも積極的に参加することなどを計画しています。

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★コラム
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~映画を通じて広まる児童労働への理解:『バレンタイン一揆』~

日本の普通の女の子3人がチョコレート原料となるココアを栽培するガーナの農家に足を運んで現実を知り、その現状を日本に伝えるために奮起する様子を追ったドキュメンタリー映画「バレンタイン一揆」。 映画製作の背景などについて、ピープルフォーカス・コンサルティングの千葉から岩附さんにお伺いしました。
千葉:先日、弊社が共催している恵比寿ソーシャル映画祭で、「バレンタイン一揆」を上映させていただきました。上映を企画したときに、NPOが主体となって映画を制作するというのは珍しいと思ったのですが、映画を作ろうと思われたきっかけを教えてもらえますか?

岩附さん:実は最初は映画化するつもりはなかったのです。当初は、設立15周年の記念として高校生から大学生までを対象に、2泊3日でガーナを訪問して児童労働の現実を知ってもらうという企画でした。企画に募集をかけると30名以上の募集があったので、各自に行きたい理由を全員の前でプレゼンしてもらい、参加者同士で投票しあった結果、ガーナに行く3名が決定しました。 決まった後、「どうやってこの企画を映像に残そうか」と、いつも映像制作等をしている知人に相談した時に「どうせなら映画にしちゃったら?」と言われ、そこから急に映画にしようという話に決まったんです。決定から実際にガーナに行くまでほとんど時間がなかったので、資金集めや機材準備など本当にドタバタでした。

千葉:そうだったのですね。映画のストーリーが急に飛ぶところもあって少し不思議に思っていたのですが、今回の話を聞いて納得しました(笑)。映画の後半、女の子たちがガーナから帰国後、バレンタイン当日に多くの人にフェアトレードのチョコレートを知ってもらおうと奮闘するシーンがありました。映画上映をした時に、「もう少しうまくできたんじゃないの?」という声が参加者からあったりしたのですが、その点は何か狙いがあったのですか?

岩附さん:後半のシーンについては、他にも同じような感想を時々頂きます。実際に現場で撮影している時に私たちも同じことを感じていて「このままじゃ上手くいかないよね。大人が助けた方が良いかな?」という議論があったのです。でも、話し合って、「仮にうまく行かなくてもそれも含めて女の子自身でやったありのままを映像にしよう」と決めたんです。子どもたちだけで企画からイベント当日まで実行する内容になったことで行動が身近なものに感じられたのか、公開後に映画を見た学生から「自分も何かやりたいと思いました」と言って、上映を企画するなど行動を起こしてくれる人が出てきてくれました。なので、結果として手を出さなくて良かったかなと思っています。

千葉:短期的なイベントの成功よりも、映画を通じて同年代の人が何か感じて次の行動に繋がることを信じるというのはすごく良い考え方ですね。確かに、大人が手を貸したことで成功していたら、映画を見ている学生にとってもっと遠い世界の活動に見えていたように思います。 映画は公開されてから4年近くが経ちますが、映画を公開したことによる変化を感じることはありますか?

岩附さん:映画自体はそれほど積極的に宣伝しているわけではないですが、時間が経っても上映の希望をいただいたり、学校向け教材としてのDVDもおかげさまで売れているので、公開して良かったと感じています。昨年までに映画総動員数は11,000人を超えました。上映の場所も、学校で教材として上映したり、企業がCSR活動の一貫として上映したり、色んなところに広がっています。また、映画に感動したお母さんが「映画を子どもに見せたいと思ったが、まだ字幕が読めないので、吹き替え版を作りたい」と言ってくれて、今年1月にはACEのボランティアチームであるママチームで完成した吹き替え版を使って上映会を開催することもできました。

千葉:そうなんですね、私も子どもが大きくなったら見せたいと思っていたので、吹き替え版の話は嬉しいです。

岩附さん:まだパパチームは出来ていないので、ぜひ立ち上げてください(笑)。映画公開の時は本当にドタバタでこんな風に広まるとは想像していなかったので、驚いています。

千葉:子どもがこの映画を理解できる年になったら、ぜひ上映会をやりたいと思います。本日はありがとうございました。

■特定非営利活動法人ACE HP:http://acejapan.org/
■映画バレンタイン一揆サイト:http://acejapan.org/campaign/15th/