「途上国の人々の『生活の向上』と『自立』を支援するコペルニクの事業」千葉達也(PFC )

(株)ピープルフォーカス・コンサルティング(以下、PFC)の千葉です。
今回は、PFCが寄付で支援も行なっている「コペルニク」をご紹介します。新興国の人々の生活向上と自立を支援するユニークな活動を行っているコペルニク。彼らが、現地で実際にどのような活動をしているのかの視察レポートをぜひご覧下さい。

■コペルニクの事業について
コペルニクは企業や個人から寄付を集め、新興国の現地の人々の暮らしに役立つ製品を最初に現地で購入します。その後、「購入した製品を現地の人々に無償で提供する」というのがよくある活動だと思いますが、コペルニクでは現地の販売員(以下、テック・エージェント)を育成し、そのテック・エージェントに製品を販売してもらう取り組みを行っています。この取り組みによってテック・エージェントに自分で稼ぐことで生計を立てる力を身につけてもらい、自立支援につなげているのです。
被災地の支援で寄付が集まりすぎると、それが結果として被災者の自立する力を奪ってしまうという話も聞くので、コペルニクの存在を知った時にこのアプローチは新興国や、復興段階にある被災地では有効な取り組みなのではないか、と考え、視察に行くことにしました。

■視察先:インドネシアのジョグジャカルタ市について
視察先のジョグジャカルタはインドネシアの首都ジャカルタから飛行機で約1時間のところにあります。kopernik1
ボロブドゥールやプランバナンの世界遺産があるため観光客が多く訪れるところで、京都府とは過去の歴史の共通項が多いことから姉妹都市関係になっています市には約50万人が暮らしており、空港周辺は外資系ホテルや国立大学もあって賑やかですが、少し市街に行くと建物はほとんどなくなり、道の両側には林がずっと続きます。
今回は、既にテック・エージェントが活躍しているジョグジャカルタ市内と、車で約2時間移動した場所にあり新たにテック・エージェントを育成しようとしている農村の2カ所を訪問しました。

■今回購入した調理用コンロがインドネシアで必要とされる理由
2009年、インドネシア政府は原油価格の急騰をきっかけに灯油ランプへの補助金をなくし、灯油ランプからLPG(プロパンガス)へのエネルギー転換政策を施行しました。。kopernik2
しかし、十分な規制や監督がなかったため、けが人が出るようなガスの爆発事故が沢山起こりました。結果として、街の多くの人はたとえ高価でも灯油ランプを使って調理をするようになってしまったのですまた、農村地域では灯油はより高価で品薄なため、薪を使うしかありません。その場合、森林から薪を集め窯で調理を行い、有害な煙に身をさらすことは特に女性にとって、大きな負担となっていました。そこで今回、そのような状況を改善するために提供されたのが高燃焼効率バイオマス調理用コンロなのです。これを使用すると薪以外の燃料(トウモロコシの穂軸、草、米の外皮)を使用できるので集める時間を削減できるのです。また、燃料がきちんと乾燥していれば使用中に煙がほとんど発生しないので女性への負担もかなり軽減されます。

■ジョグジャカルタ市内の商魂たくましいテック・エージェントたち
ジョグジャカルタ市内の会議は、ランチタイムが終わったお店で約10名が集まって開催されました。会議のメンバーはコンロを購入する窓口となる団体の代表の方と、既にコンロを販売しているテック・エージェント3名、他にテック・エージェントの候補者数名です。テック・エージェントおよび候補者の多くの人が農業などの仕事はもっていて、ある程度の生活基盤はあるものの、それだけでは収入が安定しないので他の収入源として興味をもつそうです。kopernik3
会議が始まってまもなく、営業に必要な販促ツール、分割払いの回数など、事業会社の営業会議かと思うようなやりとりが始まったことに私は驚きました。中でもトップセールスマンの人は対象に合わせたセールストークまで説明してくれて、現地の暮らしについて知る上で非常に学びが多い内容でした。
市内でビジネス経験もある方がテック・エージェントをしているのでこのような議論が出来ているのかもしれませんが、製品を無償で与えるのではなくテック・エージェントに販売することの良さはこれなのだ、とまさに実感できた瞬間でした。
テック・エージェントが自発的にどんどん考え行動すると製品が売れて家計が潤い、住民の生活環境が改善していく循環が回ることで、持続的に自立が進むことが期待されます。

■一筋縄ではいかない新しい農村地域の開拓
次に訪問した農村地域はまだこれから販売しようとしているところで、今回はコペルニクメンバーがテック・エージェントを募集するために、住民たちへの商品説明会を行うのに同行しました。kopernik4

到着して最初に村長へ挨拶に伺ったのですが、村長は自らお菓子や飲み物を用意したり、お土産を渡すとすぐに写真を撮ってfacebookにアップするなど気さくな方で、いわゆる村長のイメージとの違いに良い意味でびっくりしました。
村長に地域の話を伺うと農村の住民のほとんどは農業で生計を立てているものの、この地域は日本の棚田と同じように傾斜地で穀物を栽培しているので生産出来る量も限られるそうです。そのため、裕福とは言えない家庭もあるので現状を改善するための施策としてコペルニクの活動にも興味を持ったそうです。
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村長への挨拶を終えて、説明会会場に向かうと会場には20名ほどの女性が集まっていました。
昨日のコペルニク市内の反応を見ていた私は、多くの人がテック・エージェントをやりたいと手を挙げることを想像したのですが、意外にも現地の人々の反応は厳しいものでした。今のやり方でどうにかなっているのにまとまったお金を出してまでコンロ買う価値があるものなのか慎重に品定めしており、買うにしても分割払いの回数や保障期間についてどうなるのか、などの質問が多く出たのです。kopernik6

説明会でのやりとりを通じて、市内より収入が少ない農村地域ではお金を払うことに対して感覚が違い、ここまで厳しく必要性を判断し、購入するにも交渉するのだということを非常にリアルに理解することが出来ました。自分が買いたいとは思わない商品を人に売りたいとは当然思わないわけで、まずはテック・エージェント候補者にこの商品を使いたいと思ってもらうことが最初のステップになります。

■長期的な視点で取り組むことの必要性を痛感
製品は環境や健康のために良いものなので、お金に困っているなら無償で提供してしまうことは簡単ですが、そうすると住民が自立していく助けから遠ざかってしまう、この取り組みを実現するには易きに流されず、長期的な視点をもって取り組むことが必要なのだと考えさせられました。
今回の農村地域については、今後村の中でも影響力のある人に使用するメリットを実感してもらい広めていく予定だと話してくれていたので、どうなるのか今後が楽しみです。

PFCでは「世界平和と持続可能な社会のために、組織における全ての人々の可能性を引き出します」というCSR方針の基にCSR活動を行っています。今回のコペルニクの活動で現地の人々の可能性を引き出して自立を支援している様子を実際に見て、寄付して終わってしまう一過性の支援にとどまらない持続可能性を高める活動として非常に良い取り組みだと感じました。今後もさらにこのような活動が広まっていくことを支援していきたいと思います。