ヒューマン・セキュリティ(人間の安全保障)

ヒューマン・セキュリティとは「人間の中枢にある自由を守ること、人間自身に内在する強さと希望によって立ち、死活的かつ広範な脅威から人々を守ること」を意味しており、これは2003年の「人間の安全保障委員会」報告書において定義された言葉である。
また、報告書ではヒューマン・セキュリティは生存・生活及び尊厳を確保するための基本的な条件を人々が得られるようなシステムを構築すること、「欠乏からの自由」「恐怖からの自由」「自身のために行動する自由」など様々な自由を結びつけることも含むと記載されている。

国際社会において,ヒューマン・セキュリティという概念を初めて公に取り上げたのは,国連開発計画(UNDP)の1994年版人間開発報告であった。
その後、2000年9月の国連ミレニアム・サミットにおいて、緒方貞子前国連難民高等弁務官とアマルティア・セン・ケンブリッジ大学トリニティーカレッジ学長を含めた12名の世界的な有識者によって「人間の安全保障委員会」が設立され幾度かの会合を経て、2003年5月1日に国連事務総長へ「人間の安全保障委員会」報告書の最終版が提出された。
報告書には、グローバル化が進んだ今日の世界において安全保障の課題はより一層複雑化し、国家が人々の安全を十分に担保できていないケースがあるという現実を踏まえ、安全保障の焦点を国家ではなく「ヒューマン・セキュリティ」に拡大することが提唱されている。

さらに、国連においてもヒューマン・セキュリティの定義に関する議論が重ねられ、2012年9月10日の第66会期国連総会において、遂にヒューマン・セキュリティに関する決議(A/RES/66/290)が採択された。

最近では、国連首脳会合のほか,G8,OECD(経済協力開発機構),APEC(アジア太平洋経済協力),TICAD(アフリカ開発会議)など様々な場面で、地球規模の課題に取り組む上での重要な概念としてヒューマン・セキュリティが取り上げられ、国際社会の認識が深まっている。

また、企業においてもヒューマン・セキュリティを意識することは非常に重要である。
例えば官民が協働し、ガーナにおいて若いHIV新規感染者が増加傾向にあるという課題に取り組んだ事例では、ガーナの若者たちを集めてサッカーの試合の無料放映を行う際、HIV/エイズに関する啓発・教育ビデオを上映しその場でHIV受診ができる体制を整えたことで受診者が通常の約2.5倍に増加する結果が出ており、企業が社会貢献出来る可能性を示唆している。

参考資料
・「人間の安全保障委員会」最終報告書要旨
・ヒューマン・セキュリティに関する国連総会決議の採択
・「官民協働によるHIV/エイズの蔓延防止対策の促進」