【7】森 摂

サイト掲載森 摂

株式会社オルタナ代表取締役・「オルタナ」編集長の森 摂さんにお話を伺いました。

Q. 2006年にオルタナを設立されましたが、どのような経緯や思いで、創業されたのでしょうか。

A. 私は約20年間、日本経済新聞社に記者として勤めました。私が流通経済部に所属していた90年代は規制緩和の時代で、大規模小売店舗立地法(大店法)廃止などで価格破壊が起き、同時に商店街やコミュニティも壊した面があります。新自由主義や規制緩和の片棒をかつぎ過ぎたという点で、今でも反省すべきところがあると思っています。
1998年からの米国駐在時(ロサンゼルス支局長)に、パタゴニア(注1)やアヴェダという会社を知りました。調べたら、日本でも環境保護やCSR(企業の社会対応力=後述)に熱心な企業が少なからずあることを知り、日経新聞退社後、週刊東洋経済でこのテーマで特集記事を書いたりしました。
こうした経験から、20世紀型の資本主義は根本的な矛盾や問題点をはらんでおり、21世紀にはCSRや持続可能性が資本主義において今まで以上に重要になると確信したのです。
社名と雑誌名のオルタナは英語の「alternative」から採りました。「もう1つの選択肢」という意味であり、21世紀には20世紀型資本主義とは別の選択肢があるはずとの仮説を立てました。
その後、この潮流は私の予想以上に、グローバル規模に来たようです。しかし、まだ経済のメインストリームにはなっていません。あくまでも「もう1つの選択肢」、オルタナ(ティブ)です。ただ、それがいつかメインストリームになったときは、雑誌を止めても良いと考えています。

Q. 「グリーン経営者フォーラム」の主催もされていますが、御社ではCSRの中でも特に環境問題に力を入れているのでしょうか。

A. そうではありません。グリーン経営者フォーラムは2011年に企業読者を組織化し、昨年に一般社団法人化しました。グリーンといっても、環境問題だけをやっているのではなく、「エコロジカル」「ソーシャル」「エシカル」の3つに取り組んでいます。その意味で、ISO 260007つの中核主題の全てを取り上げています。
オルタナでは、近年、CSR塾や[新]CSR検定などを手掛けていることで、「CSRのオルタナ」という認知が急速に広まりました。そこで、いっそCSRをさらに突き詰めようと決め、この8月にグリーン経営者フォーラムも「CSR経営者フォーラム」に改称しました。
一方、日本企業のCSRは環境先行型です。1992年にリオ・サミット(注2)があり、経団連が代表団を送り込みました。その直後に、各社がこぞって環境部を作りました。ところが、現在、世界で最も重要なCSR課題は人権ですが、この方面での日本企業の取組みは遅れています。日本人が人権問題に疎いからかもしれません。グローバルにおける人権の最重要問題とは、貧困層や難民の問題のことですが、日本人の関心はまだあまり高いとはいえません。

Q. 最近、企業の間では、CSRからCSVへというトレンドが見られますが、どのようにお考えでしょうか。

A. 日本ではこの数年、「CSRはもう古い」「CSVでないとやらない」という論調が出てきました。その中で、論調に反発したCSRの専門家らがCSVに対して否定的になったこともありました。
そこで、考え方を整理する必要があると思い、つい先日、「CSR/CSVの三角形モデル図」(図1)を考案しました。
一番下のCSRは義務として行うことであり、これに取り組まないと企業として存在できません。2層目はいわゆる社会貢献で、3層目が事業としてのCSR、つまりCSVです。
CSVの流行で、この2層目にあたる社会貢献が最近減ってきていることは問題だと思っています。
日本ファンドレイジング協会が発行する「寄付白書」によると、2014年には、個人からNGO/NPOへの寄付金総額が、企業のそれを抜いたことにもその傾向が表れています。
ピーター・ドラッカーは、企業には二つの「社会との関わり」があり、一つは本業を通じての関わり、もう一つは本業以外での関わりがあると言及しました。図の中の2層目はまさに本業以外での関わりのことを指しています。
一番下のCSRにある「R」は「responsibility=責任」ですが、責任というと、上から押し付けられているような印象があります。私たちは、主催する[新]CSR検定の公式テキストも含めて、一番上のCSRの「R」は「response-ability=社会対応力」と定義づけています。
Rを「社会対応力」だと考えれば、一般のビジネスパーソンにも可能性が感じられるようになります。社会対応の目的は、非財務価値の向上であり、それが株価や企業価値の向上につながり、また潜在リスクも軽減される仕組みです。

図1:「CSR/CSVの三角形モデル図」
CSRモデル図1

Q.CSRやCSVの実践において、日本企業のベストプラクティスはどこでしょうか?

A. よく聞かれるのですけども、日本にはまだないですね。キリンは2013年にCSV推進本部を作りましたが、CSV推進部長で執行役員の林田昌也さんも、「福島の梨を使った『氷結』など色々やってはいるが、まだまだです」と仰っていました。
大事なことは、まず構想を絵に描くことです。例えば、先ほどの三角形のモデルに自社を当てはめるような絵でも良いのです。
絵を描くと、何のために行なうのか、本業とはどういう関係なのかといったことか見えてきます。「アレやっています、コレやっています」の前に、なぜCSRに取り組むかを問うことが大切です。そうした絵がないと、やっていることを社員にも説明できません。しかし、絵すらかけていない企業が大半です。
絵が描けている企業は、上場企業3500社のうち、30〜40社くらい、つまり1%程度ではないでしょうか。キリンの他、味の素、三菱ケミカルホールディングス、伊藤園などは、CSRの体系をきちんと絵に落とし込んでいる企業です。
私たちは絵が描けていない企業に対し、何のためにやるかを見極め、CSRの体系を作る作業のコンサルティングをしています。
キリンは絵ができていますが、CSV推進本部が始まって間もないので、成果が出るのはこれからでしょう。経営陣は「CSR/CSVをやって売上は伸びたのか」と問いますが、短期的にはキリンも苦戦しています。
そのキリンは今年、47都道府県ビールという新しいキャンペーンを始めました。それぞれ地域によって成分を変えるというコンセプトは、まさに企業と地域社会の共創価値であり、各地域の人にとっても「同じビールを飲むならキリンにしよう」となるでしょう。長期的にはきっと成功するだろうと期待しています。

Q. それにしても20世紀型資本主義に邁進してきた大企業が考え方をシフトするのには時間がかかりますよね。

A. いや、躊躇する時間はないのです。「サステイナブル・ブランド」という国際会議を米国で取材して、それを確信しました。ビジネス変革をしないと、本業は立ち行かなくなります。
私は「持続可能性と収益の二兎を追うべき」とオルタナで書きました。しかし欧米ではもはや二兎ではなく、一兎なのです。持続可能性追求の中にこそビジネスチャンスがあるのです。なぜなら、時代も社会も市場もすべてサステイナブルな方向にシフトしているからです。
中でも、世界の「ミレニアル世代」は所有欲がなく、シェアリング・エコノミーを支持し、人との絆を大事にする。そして、社会課題解決に熱心な企業を応援し、そうでない企業はなくなって構わないとさえ思っています。
ウォルマートは従来、EDLP (Every Day Low Price)の戦略で有名でしたが、今はEDLTCを唱えています。TCは True Costのことであり、外注費用が安くても、本当のコストは高いという概念です。
ユニクロやH&Mなどファースト・ファッションの多くは途上国で低賃金、劣悪な労働環境で作られたものです。以前、バングラデッシュの縫製工場が崩落し、1000人以上が亡くなった事件がありました。
あの工場には多くのファースト・ファッション・ブランドが生産を委託していました。
低所得者層をターゲットして、ひたすら低価格を追求してきたウォルマートさえもが、True Costに配慮すると言い始めたのです。それは今までのやり方では立ち行かなくなるという経営者の危機感がそうさせたのです。
米国や欧州ではサステイナビリティの考え方が不可欠であり、日本企業もグローバル展開をする以上は不可欠です。
「うちはドメスティックだから関係ない」という人もいますが、ミレニアル世代は日本にも存在するのです。そういう人たちに買ってもらえるか、または働いてもらえるかが問われます。特に、社会貢献は社員満足度に大きく影響します。誰だって社会に評価されている企業で勤めたいものです。
また、「うちはBtoBだから関係ない」と言う人もいますが、それも違います。たとえば、以前、日立製作所ICT事業統括本部の増田典生・CSR部長に取材した時に、「BtoBtoCtoS」を唱えておられました。
つまり取引先の先にはエンドユーザーがいて、その先には社会があるのです。日立のような大企業ですら「うちのITシステムを買ってください」と自治体に売り込もうとしても、会ってすらくれない。
製品レベルでは、他社とスペックや価格が大して変わらず、コモデティ化しているからです。しかし「社会課題を一緒に解決しましょう」と持っていけば、歓迎されるのだそうです。そうやって、釜石市の漁業振興で日立のITが活用されました。この取組みにすぐにはお金を払ってはもらえませんが、いつかはペイバックするはずで、先行投資なのです。
「アウトサイドイン」という概念(図2)があります。よく「プロダクトアウト」とか「マーケットイン」とか言いますが、顧客の先、つまりその外側には必ず社会があるという考え方がアウトサイドインです。
社会的な課題を起点とし、それを取り込むことで新規ビジネスが生まれるというわけです。グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン代表理事の有馬利男さんもよく仰っています。最近、この考え方が広まってきています。企業と顧客の部分はレッドオーシャン、つまり、つぶし合いで価格競争が起きやすい領域。しかし、社会とのところはブルーオーシャンです。ここに未来のビジネスの可能性があるのです。

図2:「アウトサイドイン」という概念
アウトサイドイン

注1:パタゴニアはアメリカのアウトドア・アパレルメーカーで、世界で初めてすべてのコットン製品をオーガニックに切り替えたり、売上の1%以上を環境保護団体に寄付したりと、環境経営で有名。

注2:リオサミットはブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された環境と開発に関する国際連合会議。