味の素株式会社

■おいしさ、そして、いのちへ
味の素株式会社(以下、味の素)は1908年に「うま味」の成分となるグルタミン酸の発見を起点に創業して以降、現在では130を超える国・地域に製品を展開しているグローバル企業である。創業当初は「日本人の栄養状態を改善したい」という願いから始まった事業であるが、その後事業の拡大や環境の変化による変遷を経て今では「私たちは地球的な視野に立ち、”食”と”健康”そして、”いのち”のために働き、明日のよりよい生活に貢献します。」というグループ理念を掲げている。
今回は、味の素が創業100周年事業の1つとして開始し、開発途上国の低所得者層を対象に大きな社会課題の1つである栄養不足問題を持続可能なビジネスによって解決しようという試みとして注目されている「ガーナ栄養改善プロジェクト」(以下、ガーナプロジェクト)について紹介していく。

■ガーナプロジェクトの原点と活動内容
ガーナでは離乳期の栄養不足が原因で2歳未満の子どもの30%以上が低身長になるという問題を抱えていた。そして、「最初の1,000日」の栄養不足によって引き起こされた成長不良は、その後の人生で改善させることは難しいと言われている。この現状に対し、味の素グループでは食品加工、アミノ酸栄養に関わる技術、ノウハウを生かすことでこの問題の解決に貢献できるのではないかと考え、ガーナプロジェクトは始まった。
現在は、生後6カ月から24カ月の離乳期における栄養不足の改善を行うことにターゲットを絞って活動が行われている。理由は、現地での調査を行った結果、ガーナでは離乳期の子どもの主な食事は伝統的な発酵コーンを用いたお粥を食べさせるのが通常だが、このお粥では子供の成長に必要な栄養が不足しており、子どもの成長遅延を引き起こす原因の1つになっていることがわかったからである。

■様々なパートナーとの連携
このガーナプロジェクトの特徴の1つとして、様々なパートナーと連携しながら進めていることがある。最初のニーズ把握行う段階ではガーナ大学と、正しい栄養教育を行う段階ではガーナ保健省と、商品を販売する物流インフラをする段階では国際NGOと、プロジェクトのそれぞれの段階において、適切なパートナーと連携しているのである。
開発途上国での持続可能なビジネスを目指した本プロジェクトでは、途上国特有の多くの問題を乗り越えなければならず、企業単独で推進していくことが困難であったことが結果としてパートナーと協働していく体制につながっていたといえよう。

■ガーナプロジェクトに学ぶ課題と機会
それぞれが異なる文化や背景をもっている現地企業や大学・NGO・官公庁などと協働していくということは当然これまでにない困難が待ち受けている。考え方の違いから物事進めていくのに1つ1つ時間がかかることも予想される。ただ一方で、うまく協働を実現できれば企業単独では実現できない課題を解決するチャンスとも捉えられる。大事なことは、CSVを企業単独と考え単体で解決できることに制限して考えるのではなく、まず社会課題を考え、その課題解決に向けて企業や団体などもパートナーと巻き込んでいくことである。
なお、PFC(ピープルフォーカス・コンサルティング)は、以前、当社主催のセミナーに、味の素の方をスピーカーに招いたことがある。そのスピーカーの方が次のように語っていたことが印象的である。
「このプロジェクトの担当者は、ガーナの子供たちのためにという強い使命感と情熱を持って取り組んでいた。必要とあれば、何のコネクションがなくとも、担当者が電話の受話器を取り上げ、国連に直接コンタクトをしようとしていた。驚くべき積極性と行動力だった」
多くの人にとって、国連や途上国の政府、NGOなど別世界に感じられることであろう。しかし、そうした壁を感じる間もなく、CSR・CSVに従事する人たちは情熱で乗り越えていくのだということを教えられた。

■参考URL:
ガーナ栄養改善プロジェクト:http://www.ajinomoto.com/jp/activity/csr/ghana/