「日本企業にも問われる人権問題」渋澤健(シブサワ・アンド・カンパニー )

来年は「明治150年」を迎えます。そんな中、日本の経済的発展を後押しし、日本人の豊かな生活を支えてくれた舞台である世界秩序やパワーバランスの潮流に、大きな変調を感じる出来事が相次いでいます。

このような現状において、国家だけではなく、「企業が持続的成長を果たすために、地球的課題について様々なステークホルダーと対話・協働して共創すること」という当事者意識の重要性がますます高まっていると思っています。

ピープルフォーカス・コンサルティングの創業者の黒田由貴子さんと共に、日本企業が世界において持続的成長を共創する期待を「グローバル・エンゲージメント」と名付け、勉強会シリーズを設けています。当初は、アフリカの在日大使や国際的活動のNGOの代表を講師としてお招きしていましたが、本年度の勉強会、GEI(グローバル・エンゲージメント・イニシアチブ)は日本企業の世界的課題の解決などを通じたCSV(共有価値の創造)に焦点を当てています。

世界的課題に取り組むことは責任ある国家やNGOだけではなく、民間企業も担う役目があるはずです。

国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)や、注目が高まるESG(環境・社会・ガバナンス)投資など、企業が地球的課題に取り組むことへの機運が高まっています。先月のGEIにはキリンホールディングスグループ経営戦略担当主幹CSV推進室長の森田裕之さんをお招きし、グループ全体の重点課題である「健康」「地域社会への貢献」「環境」についてお話をお伺いしました。

目先の利益を生むことだけが企業の存在意義ではなく、世の中で持続的な価値創造を実現させることも大事な責任です。しかしながら、これには経営トップの揺ぎ無いコミットメントが不可欠です。

質疑応答で、「CSRやCSVを重点課題として取上げる日本企業が増えてきたが、人権の取り組みについて、あまり活動が目立たない」というもっともなご指摘がありました。

偶然にも同じ週に別の視点から企業と人権について考える機会がありました。初めてお会いしたPeople Worldwide の代表取締役 CEOの松崎みささんによると、日本国内では低賃金労働者として扱われている外国人に対する人権問題が発生しているようです。

日本では 100 万人ほどの外国人が単純労働に従事していますが、その 2 割程度が「技能実習制度」により入国している技能実習生だそうです。実際のところ、その多くが低賃金労働者になっています。悪質な雇用環境であっても基本的に 3 年間の間は転職できず、間に入っている監理団体が入管に依頼した場合にのみ移籍の可能性が発生します。経営者や株主が見えないところの下請けを含むバリュー・チェーンにおいて、人権をめぐる問題が生じている可能性がある現状に目を向けることは企業経営の重点課題だと思います。

その後も人権問題について考えさせられる偶然が続き、5月末に京都で開催した人権問題の是正に取り組む世界的なNGOのヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)のカウンシル・サミットに出席する機会に恵まれました。8年ほど前の東京事務所設立以来、応援している土井香苗さんという一人の女性の熱い想いが大勢の人々を動かし、とうとうアジアで初めて世界のHRWの幹部、スタッフ、リサーチャーがなど関係者を集まる大会議を日本で開催するに至りました。

「正義」を主張すると、立場によって解釈や大義が異なるかもしれません。しかし人間の「尊厳」や「慈愛」には普遍性があり、甚く感動する場面が多い数日間でした。

HRWは、世界の様々な人権問題に光を当てて、現地に入って証言を収集し、事実を暴く筋金入りのレポートを公開することで現状の是正に努めています。人権問題の加害者が政府など権力者の場合もあるので、現地入りしているリサーチャーは文字どおりの命がけ。自分の身を常に守ることを意識しながら日々を暮らして活動しています。会議で登壇している姿を写真に撮ってSNSに上げるなどはNGでした。

自分の身内でもない、知り合いでもない他人の、人間としての尊厳を回復させるために命をかけている勇敢なヒーローたちに、本当に頭が下がります。

閉山後の清水寺や閉館後の京都国立博物館の貸切など、日本人でも体験できることができない豪華なイベントも設けられ、エリート層の宴という批判もあるかもしれません。しかし緊迫した日々を過ごしているリサーチャーたちが、しばし息抜きしてホッとできる時間と空間を日本が提供できたことは本当に良かったと思います。

京都国立博物館の会場で池坊次期家元のライブ・パフォーマンスにあり、バラバラによこたわっている花、葉、枝にどんどんと息が吹き込まれて行く過程に感銘を受けました。生け花とは様々なダイバーシティから、ひとつの世界がつくられるインクルージョンであることに気づきました。

日本人の感性に、ダイバーシティ&インクルージョンという人権問題の解決の核心になる大切なものが宿っているのですね。