「私たちでシナモン農家を助けられないか?!~スリランカの農村で貧困層と対話したリーダーたちが立ち上がった」工藤真友美(PFC )

■グローバル・エンゲージメントが体験できるGIAリーダー・プログラム
このサイトで掲げている「企業が持続的成長を果たすために、地球的課題解決について様々なステークホルダーと対話・協働して共創すること」の考え方とその実践を広めていく具体的な取り組みの1つとして、異業種交流型研修である「GIAリーダー・プログラム」が毎年開催されています。
GIAリーダー・プログラムとはこれからのリーダーに求められる3つの資質(グローバル・イノベーティブ・オーセンティック)を向上させることを目的とし、国内で数日間の座学を行った上で、途上国で約2週間に渡り多様な人々と対話・協働しながら途上国が抱える課題の解決策を共創することに挑戦するプログラムです。
GIAリーダープログラムの詳細はこちらをご覧下さい。

2016年のプログラムでは、3つの企業と1つのNGOから派遣された男女8名が参加しました。今回は、26年間近くにわたった紛争が2009年に終結した後、目覚ましい発展を遂げているスリランカに2週間滞在にわたって政府高官・現地企業・NGO・ソーシャルアントレプレナー等と日々対話する濃密な経験を経て、参加者らは一様に「自分はこれから何ができるのか、と自分に問いかけ見つめなおす機会になった」と感想をもらしていました。
さて、スリランカの滞在中は、予め用意されたプログラムを体験する一方、毎年思わぬ成果が生まれることがあります。何が起きるかわからない新興国ならではの醍醐味です。今回は、その中でも参加者が特に地球的課題を肌で感じたと語っていた体験を以下にご紹介します。

■参加者がスリランカのシナモン農家との対話で知った真実
それは、プログラムの前半4日目に英語もほとんど通じないスリランカ南部のマータラ州の農村にホームステイした時のことです。この農村付近は数年前まで道路もでこぼこで、ほとんどの都市部へのアクセスが悪く「見捨てられたエリア」と言われていました。
今でもインフラは十分に整備されておらず、実際に参加者の1人が泊まったホームステイ先の4人家族で住んでいる家は、外壁が木と泥で出来ており、家の中はワンルームにシングルベッドとドレッサーと棚のみで、キッチンも屋外にある環境で生活をしているということでした。

ホームステイ先の外観
ホームステイ先の外観
ホームステイ先の屋外キッチン
ホームステイ先の屋外キッチン
インタビューを通じて農村の現状を見える化
インタビューを通じて農村の現状を見える化

到着して間もなく、村の開発担当オフィサーや住民との対話を通じて、いくら働いても貧困の状況から抜け出せない現実を知ることになりました。
村の人々は、以下のことを参加者に説明してくれました。

【マータラ州・農村の現状】
●この農村では栽培したシナモンが主な収入源となっている。
●シナモンから取れるオイルを加工すると市場で10倍近い値段で取引されるが、農村では加工できないので、中間業者に安い値段で買い叩かれても従うしかない状況になっている。
●オイルに加工する機械等のインフラ設備があれば自分たちが直接取引をして増やすこともできるが、政府は灌漑などのインフラ設備を建設することが優先で十分なサポートが受けられない状況にある。
●自分たちだけでは、加工する技術やマーケティングの知識もなく、どのように付加価値を付ければ良いかわからない。
そして、最後に「どうにかできないか」と真剣な眼差しで参加者に訴えかけてきました。

政府高官達との話では出てくることのなかった現実を知った参加者全員に、家に泊めてくれた農村の住民のために、「なんとかしたい!」という気持ちが沸き上がり、熱い討議がはじまったのです。
それぞれの参加者の専門分野の本業を活かし、販売者や貿易会社との直接取引の可能性、サプライチェーンの分析、日本にある「農業協同組合」のような共同コミュニティ組織の立上げや運営の可能性、加工技術やマーケティング知識の伝授、生産者にオーナーシップを持たせる方法、など討議は長時間続きました。

村の人々の話を聞き解決策を考える参加者
村の人々を話を聞き解決策を考える参加者この農村にホームステイした夜に、多くの参加者は英語が通じない中でホストファミリーとのコミュニケーションを楽しむ一方、国の経済的な発展が進む中で、なぜ農村では今の貧困状態が続いているのか、日本では考えられないこの状況を変えるためにできることはないのか、と疑問を持ちました。

その場ではすぐに具体的な解決策は出なかったものの、「地球的課題について様々なステークホルダーと対話・協働して共創すること」を実際に考え、実践する場になったこの出来事は、深く参加者の心に残りました。そして、参加者の1人は、元々は違うプロジェクトテーマでこのプログラムに参加していましたが、シナモン農家の課題を知ったことで、個別のプロジェクトテーマを変更することに決めました。また、今年の参加者全員も自分達ができることから始めてみよういう気持ちが強くなり、帰国後も協働して「シナモン・プロジェクト」として、取り組むことを誓い合いました。

2016年度GIAプログラム参加メンバー
2016年度GIAプログラム参加メンバー

■様々なステークホルダーと対話して得た気づき
これまで、外国の政府など上流での交渉やビジネスを進めることが多かった参加者は、GIAリーダー・プログラムでの経験を通じて、農村での現地の方との交流で生の声を知り、受益者側の視点で現場を見る重要性を改めて感じていました。
また、スリランカに行く前は貧困削減を取り組むことを社会課題に含めていた参加者からは、ホームステイの経験を経て「貧困だから、幸せではない」というのは自分が勝手に想像していたことであり、「幸せ」のあり方についても、改めて考えさせられたという意見も出ました。
収入について悩みはあるものの、村人たちは家族と一緒に暮らし、夜は近所の人と語らい幸せそうでした。経済的な視点だけではなく、社会的なつながりを保っていることが、彼らにとっての「幸せ」だったのです。

村の子供たちとの記念写真(PFC工藤真友美)
村の子供たちとの記念写真(PFC工藤真友美)

帰国後の成果発表の場では、「BOPや新興国でのビジネスを考える時に、彼らは変わることを本当に望んでいるのだろうか。私たちの価値観の押し付けや『片思い』になっていないだろうか。新興国でのビジネスやBOPでは、こうしたことも考えて進めていく必要があるのではないだろうか。現地に行って実際に対話したからこそ得ることができた気づきだった」と語ってくれた参加者の言葉が非常に印象に残りました。(PFC工藤真友美レポート)