第12回グローバル・エンゲージメント・イニシアチブ有志会「海のプラスチック汚染を阻止する!」(レポート)

2018年12月3日の第12回GEI有志会では、株式会社ピリカ代表取締役の小嶌不二夫さんに海洋プラスチック問題についてお話ししていただきました。以下はお話の概要です。

世界を旅して気づいたこと

7歳のときに読んだ本がきっかけで地球環境問題に興味をもった。研究者として問題解決に取り組もうと京都大学の大学院へ進学したが、自身の適正なども考え、ビジネスとして環境問題に取り組みたいと思うようになった。ただし、環境問題のような大きな問題は取り組むのにお金がかかるので、どうしたら資金がない自分にできるだろうと考え、世界中を旅しながらヒントを探した。そこで気づいたのは、ごみのポイ捨て問題は、都市部からジャングルの奥地まで世界中のどこにでも存在し、あらゆる国や都市に共通した問題であること。まずはこの問題を解決することを決意した。帰国して、大学院のパソコンや電気代を休学中の身でありながら勝手に使って取組み始めたところ、案の定先生に怒られ、最終的に大学院を中退して事業に専念する決断をした。上京し、2011年にアイヌ語で「きれい」という意味の「ピリカ」という社名のITベンチャーを立ち上げた。というわけで、我が社は「京大発」と謳っているが、実は非公認なのである。

ピリカではスマートフォンアプリを活用したごみの調査に取り組んでいる。具体的には、画像解析技術を活用して、ポイ捨てごみの分布や深刻度を見える化できるシステムを作った。日本の道路はきれいだと言われているが、調べてみると、意外にごみが落ちているのがわかる。また、それまで町の汚さを測る方法がなかったのだが、このアプリによってポイ捨てごみ対策の費用対効果が明示できるようになったという側面もある。

また、楽しみながらごみ拾いをするためのアプリも開発した。このアプリを使って、自分が拾ったごみを撮影し、アップロードして、他のユーザーと競い合ったり、称えあったりすることができる。MVPの表彰などもする。今は、83か国に50万人以上のアプリユーザーがいて、これまで累計で1億個のごみを回収できた。このアプリは企業の社員がCSR活動として町の清掃活動をするときにも使ってもらっているし、全国の様々な自治体にも活用してもらっている。清掃活動のボランティアを募るのに苦労している自治体が少なくない中で、このアプリでより多くの人に参加してもらうのに役立てていただいている。

 

最初にやるべきはごみの海洋流出メカニズムの解明

ポイ捨てごみの調査やごみ拾いといった事業内容からか、「町をきれいにしたいんだね」と言われることが多い。しかし、自分が本当にやりたいことは街の美化ではなく、あくまで環境問題の解決で、ポイ捨てごみに関して言えば人間が出すごみが自然界に悪影響を与えるのを阻止することが重要だった。創業5年を経た一昨年、ついに海洋流出阻止というテーマをピリカの第3の柱として活動を開始した。

今やメディアで取り上げられることも増えた海洋プラスチックごみ汚染問題だが、実は、このテーマではっきりとわかっていることは以下の2つしかない。

1.海にたくさんのプラスチックごみが存在している

2.そのプラスチックごみの大半は陸で作られた、または使われていたもの

しかし、1番と2番の間がまだ何もわかっていない。つまり、何が、何割くらい、どういうルートで海にたどり着いているのかということが解明されていないのである。そもそも人間の生活において、プラスチックはありとあらゆる場で使われており、その全てを無くすのはとても難しい。現実的な解決策を見出すには、何が流出しやすいのか、流出するとリスクが高いものは何かなどの観点から問題を絞り込むことが有効だと考えた。問題は調査方法である。

2年前の時点では、海でしか使えない調査手法が主流だった。船でネットを引き、海水中に含まれるプラスチックごみを調査するのだが、その手法では船が通れない狭い河川では実施できない等の限界があった。そこで、河川など、様々な場所で使える新しい調査方法を開発する必要があると考えた。

それでできたのが、「アルバトロス」という名の調査装置である。初代のものは100均で購入した商品の組み合わせでできた代物だったが、改良を重ね、第5世代目となる今のアルバトロスは使い勝手のよいものとなった。簡単に入手できる素材やパーツから組み立てられるのだが、ポイントはロープで吊るす構造になっていることである。というのも、装置を橋に設置することになると、様々な許認可が必要となり、大変な書類作業が生じてしまのだが、人がロープを手に持って吊るすスタイルにすることで釣りをするのと同等に見なされ、必要な許認可を大幅に減らすことができる。

 

日本の河川に漂うプラスチックごみの正体

今年の夏に、5代目アルバトロスを使って、国内ならびにニューヨークの38か所で調査を行い、10月に成果発表を行った。38か所中、37か所でプラスチック片が見つかった。その種類は様々であり、場所によっても様相は異なった。なお、河川に大きなプラスチックごみが流れていることはあまり多くないので、相対的に多く流れているマイクロプラスチックを調査対象にした。

上流、下流、下水処理場や港湾の位置など、様々な切り口でどんなマイクロプラスチックが浮遊しているのかを調べた。「日本近海のごみの大半は諸外国から流れてきている」という声をよく聞くが、上流域からもプラスチックは見つかっているので、我々の生活からの流出も多いと考えている。特に太平洋側に浮遊しているプラスチックごみの殆どは日本から流出したものと考えるのが自然ではないだろうか。

また、アルバトロスで採取したごみから手作業で1つ1つプラスチック片を抽出し、それを様々な分析器にかけて、プラスチックの成分も調べた。これは大変な根気がいる作業であった。

プラスチックには様々な種類の成分があるが、国内のプラスチック生産量の48%は、PE(ポリエチレン)とPP(ポリプロピレン)である。PEとPPは軽くて水面近くに浮遊しているので、たくさん見つかりやすい。一方、PET(ポリエチレンテレフタレート)は水に沈むので、今回の調査手法では、見つけられていない。

今回、分析したプラスチックの23%はPEやPPを原料とした人工芝の破片と思われるものであった。これらはポイ捨てごみではなく、テニスやフットサルなどのコートの人工芝が折れて排水溝から流れ出し、下水処理場には行かずに、直接海につながっているところに流れていってしまっていることが推察される。意図的に捨てたという問題ではなく、仕組みとしての問題だから、仕組みを解決しないといけない。

また、分析したプラスチックの1.7%は、2-3ミリの球状のカプセルであり、おそらく農業で撒く肥料のカプセルではないかと思われる。

解明しきれず不明なものもまだたくさんあったのだが、まずは、判明したもの、そして割合の多いものから、解決策を考えていくべきである。最近は、ストローなど目につきやすいものが注目されているが、データを基に対策を考えなくてはならない。データを集めれば、都市部で必要な対策は何か、農地で必要な対策は何かということが見えてくるはず。

われわれは現在この調査結果を積極的に発信している。ローカル紙はもとより全国紙やテレビ局にも取材してもらったし、横浜、川崎、大阪などの地方議会で調査結果をもとに質疑が行われている。産業界とも意見交換中である。この問題は事業者にとってリスクであり機会でもある。プラスチックメーカーだけでなく、例えば食品関係の企業にとっても、食品の中にプラスチックが混入する可能性があり、大きなリスクとなりうる。プラスチックが健康にどういう影響を与えるのかはまだわかっていないのだが、日本人はとかく環境問題のことよりも食料安全問題に敏感である。

一方、プラスチック業界にシェアを奪われ続けてきた紙、金属、硝子などの業界はリベンジする時が来たと鼻息荒い。 そういった企業とも意見交換をしている。

 

今後に向けて

河川や港湾からプラスチックを収集するまではよいのだが、分析をするのに、非常に多くの人手でがかかっている。分析装置も数が少なく費用がかかる。そこを技術革新したいのだが、そのための資金が必要である。問題解決に正面から取り組むには、様々な方面からバランスよく資金を調達することが大事になる。ステークホルダーには様々な立場があり、問題解決に伴う不都合があるということになれば、いつ資金提供を打ち切られるかわからないからだ。公的機関ですら、調査の結果明らかになったデータが公開されるのを嫌がったりすることがある。様々な組織と協力し、問題を解決するところまでやり切りたい。

 

Q&A

お話に続くQ&Aのセッションでは次のような質問や感想が寄せられ、1つ1つ丁寧にお答えいただきました。

ました。

・様々な企業とコラボレーションを模索しているとのことだが、最初に会ったとき、何割くらいの企業が前向きか?そして、何割くらいの企業が実際に協業してくれるか?

・今後、調査の拡大をしたいとのことだったが、今後ネックになるのはどういうことか?

・調査は太平洋側がメインのようだが、日本海ではまた違うのではないか。渦の巻くところによって状況は違うのではないか?

・海に流出した日本からのごみは震災の影響だというが?

・抽出が手作業とのことだが、AIで海のごみを見極めることは技術的に可能か?

・陸上、河川、海洋を1つの流れとして分析することはできないか?

・NYの調査結果は日本と比べてどうだったのか?

・人工芝ごみは、世界全体の海洋においても大きな問題だといえるのか?

・底に沈んでいるPETにはどんな問題があるのか?

・レジ袋の影響はどれほどあると考えられるか?

・ペットボトルはごみではなくリサイクルできる資源物と捉えている。最近、人々が報道に踊らされ、情緒に流されている風潮がある、今回のお話のような科学的・実証的なデータが大事と考える。

・企業として、この問題に取り組んでいるところはあるか?

・バイオプラスチックや生分解性プラスチックについてどう評価するか?

・化粧品や洗剤のマイクロビーズは見つかったか?

・海で使えるセンサーのニーズはあるか?

・海洋プラスチック問題について、企業に求めることは?